酒蔵入り口酒蔵入り口 Photo by Yohko Yamamoto

富士山麓で酒米を育てて酒造り。
酒蔵マルシェも大人気

 富士山を仰ぐ田園地帯にある富士錦酒造は、蔵の横で酒米を育て、地の素材で酒造りに励み、蔵開きには1万人以上が集う。

 蔵元は26年前に、33歳で妻の生家の酒蔵を継いだ18代目の清信一さん。「愛される蔵」をモットーに意識改革を進め、蔵を再生した。

 信一さんは横浜生まれの横浜育ち。シンクタンクのシステムエンジニアだったが、突然の義兄の交通事故死で、運命が変わった。

 東京農業大学の教授に理由を話し、2年分の醸造カリキュラムを半年で学び入社。蔵は年長者ばかりで伝統的な風習が残り、一筋縄ではいかない。そんな中、前職の専門を生かし、営業や酒造りにコンピューターを導入。数値化した情報を社内で共有し、ミスを防ぎ分析に役立てて成果を上げた。その一方、蔵の隣で酒米の栽培を開始。品種は静岡県が開発した誉富士だ。

 蔵と酒を地元の人に知ってもらおうと、25年前から春の蔵開きを企画。搾りたての酒を出し、人気のカフェや食堂を集めて移動動物園も用意。家族全員で楽しめる内容はその後、1万人以上が集まる一大イベントに成長。

「毎年参加のご夫妻のお子さんが、20歳になって『富士錦』で乾杯してくれたんです」と信一さん。

 コロナ禍以後は小規模なマルシェに変更し、毎月開催。日本酒以外にも地元の梅や甘夏、ユズ、ブルーベリーを使ってワインやリキュールも手掛け、中でも本山茶の一番茶を使った焼酎「八十八夜」は高評価。

 地の宝で地の酒を醸し、地元を笑顔にする蔵を目指す。

富士錦 特別純米 ほまれふじ富士錦 特別純米 ほまれふじ
●富士錦酒造・静岡県富士宮市上柚野532●代表銘柄:富士錦 純米酒、純米吟醸 清、富士錦 純米大吟醸 山田錦、純米大吟醸 愕堂●杜氏:小田島健次●主要な米の品種:誉富士、山田錦、雄町、美山錦