企業幹部のスキルがどんどん時代遅れに
5年後を乗り切ることができない

Michael Useem(マイケル・ユシーム)Michael Useem(マイケル・ユシーム)
米ペンシルベニア大学ビジネススクール・ウォートン校教授。同校「リーダーシップ・チェンジマネジメント(変革管理)センター」所長。MBA、およびエグゼクティブMBAコースで経営論・リーダーシップ論を担当。新刊『The Edge: How Ten CEOs Learned to Lead―― And the Lessons for Us All(エッジ――10人のCEOはどのように組織の導き方を学んだか、私たち誰もが学ぶべき教訓)』(未邦訳)のほか、『The Leader's Checklist, Expanded Edition: 15 Mission-Critical Principles(リーダーのチェックリスト――15の必要不可欠な原則)』(未邦訳)、『Go Long: Why Long-Term Thinking Is Your Best Short-Term(ゴー・ロング――なぜ長期的思考はベストな短期的戦略なのか)』(共著、未邦訳)など、著書多数 Photo by Tommy Leonardi

 それは、ユシーム教授も著書で指摘しているように、企業の幹部のスキルが時代遅れになるペースが、加速していることだ。

 ハーバード・ビジネス・スクールのボリス・グロイスバーグ教授など3人の研究者が、世界145カ国の、中~大企業の幹部7000人余りを対象に行った、2018年発表の共同研究によれば、CEOや最高財務責任者(CFO)、最高情報責任者(CIO)などの幹部のスキルが、時代遅れになるリスクが高まっているという。幹部らが持っているスキルのうち、毎年、時代遅れになるスキルの割合は2007年には1割だったが、2017年には2割に達したという。

「昨年の時点で知っていたことの5分の1は、今年になったら、もはや使い物にならない」(『The Edge』から)

 かつて、米主要企業の平均存続年数が60年を超えていた背景には、求められるリーダーシップスキルが今ほど激変しなかったために、幹部が会社を長年にわたって成長させ大きくすることが可能だったという事情もある。

 だが、状況は一変した。

「これまでのやり方では5年後を乗り切ることができない。まず、その点を肝に銘じる必要がある」。ユシーム教授は、そう警鐘を鳴らす。

「リーダーであり続けるには、エッジ(断崖・優位性)からエッジへとジャンプし、新しいリーダーシップスキルを学び続ける必要がある。下に巨大な渓谷が横たわっているからといって、おじけづいてはいけない」(同教授)

 渓谷を飛び越える方法を見いだし、「未来のスキル」を学ぶリーダーだけが生き残り、会社を存続させることができる。

「渓谷と渓谷の間にそびえるエッジに到達することが、絶対不可欠だ」と、ユシーム教授は言い切る。

 同教授は、米国の企業をはじめ、日本、中国、インドなど、多くのCEOや上級幹部に聴き取りを行い、「企業リーダーには何が必要なのか」を分析してきた。現在、日本企業の幹部に関する共同研究を進めており、来年には発表できる見通しだという。

 同教授が過去1年間に話した企業リーダーの誰もが、コロナ禍という激動の時期を経て、リモートワークによる従業員の管理など「新たないくつものスキルを学ばなければならなかった」と、異口同音に打ち明けたという。

「『リーダーシップ』は、生涯学び続けなければならないスキルセット(スキルの組み合わせ)。そのため、学ぶためのメソッド構築が必要だ」と、同教授は話す。