ただ、原田さんの小区は幸い、食料が手に入る状況にある。政府から無料の支援物資が配布されているという。しかしこうした支援物資が届いてない地域もあり、また場所によって中身も量もバラバラだといわれている。

 食料面の不安が解消されているからか、原田さんにはこの異常事態を楽しむ余裕もあるようだ。

「(ロックダウンは)日本ではなかなかできない経験で、思ったよりこの状況を楽しめている。街が静かになり、鳥のさえずりも聞こえてある意味気持ちが良い」(原田さん)

 生活に関しては、住人同士で協力し合い、情報交換をしているという。

「住人のグループチャットがあり、地元の皆さんがとても親切に助けてくれている。上海だからか、日本語ができる人が多い。自分が感染してしまわないか、この状況がどうなるのか、この先に不安がないわけではないが、自己責任である程度のリスクを負う覚悟をしてこの地で仕事をしている」(原田さん)

人事異動で帰任予定も帰国できず……
病院に行けない不安も

 また、筆者の親しい友人であり、インテリアデザインの仕事をしている井上紀子さん(仮名、40代)は、ロックダウン中に体調の異変を感じた。そのとき、外出できない中、どう行動すべきか非常に困ったという。

「実は、先日の早朝、突然原因不明の激しい腹痛に襲われた。背中が痛く、手足がしびれ、冷や汗が出るほど呼吸が苦しくなり、死ぬかと思った……。ロックダウンで自宅を出られない中、どうやって病院へ行けばいいのかとろうばいした。幸い、夕方にはちょっと症状が回復したが、そのとき、ふと上海に大勢いる一人暮らしの高齢者は大丈夫なのだろうかと不安に思った」

 井上さんは、これまで「コロナ政策の優等生」だった上海がロックダウンに陥ってしまった事態に直面したことで生じた心境の変化を明かしてくれた。

「今まではできれば楽観的にいようと、本能的に良い情報にしか目を向けなかったが、今回はたくさんのことを考えさせられた。つい、日本と比べたりもして、やっぱり自由が一番、決して自由はお金で買えないと思った」(井上さん)

 また、上海に駐在している日系企業の社員たちも、突然のロックダウンに戸惑っている。日本の衛生用品大手メーカーの上海支社に単身赴任している谷内幸喜さん(仮名、40代)は、「3月末に人事異動で帰任する人は、ロックダウン下で通行証の申請や車の手配など一連の手続きができず、現在空港まで移動ができない状況」だと教えてくれた。

 谷内さんが勤めるメーカーでは、紙オムツや生理用品などを上海の医療機関に寄付しようとしているが、作業員が自宅から出られず、そうした商品の出荷作業もストップしてしまっているという。

 また、上海での生活については、以下のような悩みを話す。

「政府が配布する無料食材は大変ありがたいが、実を言うと、普段は外食やデリバリーで食事を済ませていたから自宅は料理が満足にできる環境ではない。調理器具や道具がそろっておらず、丸1羽の鶏やタチウオなどをどう調理すればいいか困っている……」(谷内さん)

政府から無料で提供された食材政府から無料で提供された食材
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 加えて、上海に赴任してから日が浅い人は、言語の壁にも苦労することが多い。

「最近上海に赴任した人たちは、中国語もまだできないし、生活環境にも慣れていない。特に、今は地元の人たちが、食料をアプリで“奪い合う状況”だ。また、小区の住民同士で共同購入を行っているが、こうしたやりとりは、中国人でもうまくできないのに、ましてや日本人はついていけないだろう」と、谷内さんは心配そうに話した。