「数をこなすことは野球選手にとって『イロハのイ』。自分のことを振り返っても、早稲田で量をこなしたからこそ、プロで20年間も投げることができた。今の部員にしても、中学、高校で練習してきたからベンチ入りできるようになったはず。それなのに、今の学生は数をこなすことを嫌う。さらにうまくなるためには、もっと練習しなければ。分かっているはずなのに、やらない。投手の走り込みメニューについて、『なぜこんなに走らなきゃならないんですか』と聞いてくる。一方で文句を言わずに走る部員もいる。試合ではそういう投手を使う。その選択は間違っていない」

 例えば、ITの発達などにより、何もかもが合理化される世である。学生気質も当たり前のように変化するのだろう。60代の野球部OBはこう話す。

「今はどの大学の部員も裕福なお坊ちゃまばかり。昔の早稲田の野球部員は3畳間で寝起きするようなバンカラ学生が多かった。そんな学生が練習や試合で泥くさく頑張っていた。頑張るかどうかは、結局そこから来ているんじゃないか」

 そのOBは嘆いているわけではない。今の学生も頑張ることは頑張るが、泥くさくなくスマートになった。それが趨勢なのである。

「猛練習には意味がある」と
小宮山監督が断言するワケ

 そんな時代でもなお、「猛練習には意味がある」と小宮山は断じる。

「例えば走り込み。PP(ライトとレフトのポール間を走るメニュー)は足腰強化のほか、きついメニューを乗り越えることも目的。この春は30秒切りで20本やった。経験上、30秒で走ったつもりでも40秒かかる。これを最後まで走り切ることが大事。懸命に走っているかどうかは、見ればすぐに分かる」

 2020年秋の優勝時のエース・早川隆久(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)はよく走った。早稲田の投手陣の走り込みの量は多く、冬にはPPを50本は当たり前。早川は夏に20本となるところを冬季と同じく50本走った。メニュー終盤のつらいときにも淡々と走ったという。投手陣の柱として、4年時にはキャプテンとして、部員たちの目を十分に意識したのである。そういう姿勢を、監督が見逃すはずもない。

 さらに、野球の猛練習といえば「千本ノック」だ。