「千本ノックは精神面を鍛えるためにある。ノッカーは捕れそうで捕れないところに球を打つ。左右交互に打ち分ける。部員はヘトヘトになりながらも反骨心が芽生えてくる。さらに限界に近づいたところで、強い反骨心を保てるかどうか。実際のゲームでは勝負を決める土壇場が必ず現れる。そのとき、ギリギリの状態を経験した選手だけが力を出し切れる」

 野球は他のチームスポーツと比べて特殊な部分が多い。打席では一人一人が注目される。守備でも、サードにゴロが転がれば、それを捕るのはサードである。他の8人にはどうすることもできない。

 公式戦ならば名前もアナウンスされる。そこに漏れた部員から嫉妬を受けやすい構造を持つのかもしれない。「あいつにはかなわない」と部員たちに認められるには、猛練習に打ち克つ気概こそがいるのではないか。

「体力の限界に迫るような猛練習は、科学的にはナンセンスなのかもしれない。それでも意味は絶対にある。猛練習への態度は部員全員にも見える。大事なところでも頼りになる男かどうか。そういった信頼関係は、合理的な練習だけでは構築できない」

 大事な場面でチャンスを与えられるのは、猛特訓をくぐり抜けて監督とチームメイトの信頼を勝ち取った選手なのである。

プロですら受ける千本ノック
監督は猛練習に臨む選手を見ている

 プロ野球の世界でも、技術的に成熟しているレギュラークラスでさえ千本ノックを受ける。