◇仕事をでっちあげる理由

 そもそも、なぜ実際にはやることがないにも関わらず、人は仕事をでっちあげるのか?

 目的を達成することが仕事の名目なら、終わった時点で帰ってもいいはずだ。しかし実際には仕事を早く終わらせても、ほめられるよりも怠惰を指摘されるため、効率よく仕事をこなすより仕事をしているふりをすることのほうが重要になってしまう。

 決められた時間に働いていなければならないという考え方は、最近生まれたものだ。普遍的な仕事のあり方とは、「必要なときに集中的に仕事をして、それ以外は、ぶらぶらしている」といった、例えば農業のようなものだった。

 この仕事のあり方の変化について、グレーバーは歴史家トムスンの論を参照しながら、ヨーロッパにおける時計の発明と並行して生じた時間の使い方に対する考え方の変化を分析した。資本主義的なモラルが広まる前の仕事は「タスク指向」で、人間は放っておけばこのような労働のリズムを選ぶが、現在は「時間指向」の形態を押しつけられることで、仕事のブルシット化の圧力が生じている。

【必読ポイント!】
◆「合理化の不条理」
◇ネオリベラリズムと官僚制

 ネオリベラリズム。「新自由主義」または「ネオリベ」と略されるこの言葉のおおまかな意味は、役所仕事は非効率的で赤字を生むが、市場原理で動く「民間」であればムダが削減されてうまくいく、といったものだ。

 BSJ論はこのネオリベラリズムと官僚制の文脈にある。

 BSJ論を理解するために押さえておくべき構図は、テクノロジーの進化によってケインズの予言は現代では実現不可能ではないにもかかわらず、実際には達成を阻む要因があるということだ。

 ネオリベラリズムは通常「経済的プロジェクト」とみなされるが、「民間の論理」が持ち込まれたことで、目標が達成されるどころかかえって経済成長率は低下し、科学的にも技術的にも発展が滞った。

 著者は「ネオリベラリズム」の問題点を考察するにあたり、「官僚制」という視点を提案する。『ブルシット・ジョブ』第七章では大学の「シラバス」の作成手順が示されているが、これによれば「非効率」な伝統的大学でシラバス作成に必要なやりとりは教員から教員への通知だけだが、一方ネオリベラル改革を実施する先端的な大学の場合は管理チェックや各担当者への報告など12にも及ぶ過程が必要になる。そしてこの後者において「不条理なまでの意味のわからない」BSJと、そのように増えたBSJを行う新たなポストまでもが生まれる。わたしたちはこのようなものを「効率化」と呼んでいる。