もちろん僕もリアルタイムで観た。番組終盤では、死刑が確定した井上嘉浩からディレクターに届いたという手紙が紹介されている。そのシーンを見ながら僕は唖然とした。その文中で井上は、自身が法廷で証言したリムジン謀議を、自身で完全に否定しているのだ。紹介された手書きの文章を、以下にそのまま引用する。

 「実はリムジンでは、たとえサリンで攻めても強制捜査は避けられないという点で終わったのです」

この新たな証言は、どれほど重要な意味を持つのか

 短いセンテンスだが、麻原法廷だけではなく一連のオウム裁判を、根本からひっくり返すほどに重要な事実が明らかにされている。でも不幸なことに視聴者のほとんどが、井上のこの新たな証言の意味を、正確に理解していなかった(としか思えない)。今に至るまで、この手紙についての反響はまったくない。もしも当時の裁判官と検察官が番組を観ていたら蒼褪めていたかもしれないけれど、その後にまったく反響がないことで、やれやれと胸を撫で下ろしていることだろう。地下鉄サリン事件についての一審判決要旨の一部を、以下に引用する。少し長いけれど、「実はリムジンでは、たとえサリンで攻めても強制捜査は避けられないという点で終わったのです」との井上の言葉を意識に置きながら、最後まで読んでほしい。とても重大な錯誤が明らかになる。

被告人は同月一八日午前零時過ぎ、都内にある教団経営の飲食店において、井上ら教団幹部約二〇人を集めて食事会を開いた。被告人は「エックス・デーが来るみたいだぞ」などと強制捜査を話題にしていた。同日午前二時過ぎに食事会を終え、上九一色村の教団施設への帰途、被告人は強制捜査への対応を検討しようと考え、村井秀夫ら幹部に被告人専用のリムジンに乗るよう指示した。

 被告人が車内で、間近に迫っている強制捜査にどのように対応すればいいかについて意見を求めると、村井が阪神大震災が起きたから強制捜査が来なかったと以前被告人が話していたことに言及し、これに相当するほどの事件を引き起こす必要があることを示唆した。被告人が、井上に何かないのかと聞いたところ、井上は、ボツリヌス菌ではなくてサリンであれば失敗しなかったということなんでしょうかという趣旨の意見を述べ、村井もこれに呼応して地下鉄にサリンをまけばいいんじゃないかと発言し、地下鉄電車内にサリンを散布することを提案した。