日本とASEANの
経済関係で摩擦の恐れ

 問題は日中経済関係だけではない。長年、日本にとってASEANは魅力的な経済市場であり、今日でもそれに変わりはない。ASEANにはテロや海賊、反政府デモなど非国家的な政治リスクはあるものの、いわゆるチャイナリスクのような国家的な政治リスクを心配する日本企業は少ないだろう。

 しかし、今後は事情が異なってくるだろう。今回の対露制裁に参加しているのはASEANではシンガポールのみである。

 ASEAN各国は独自にロシアとの関係を有しており、米中対立など大国間の争いごとに巻き込まれたくない、ASEANが米中競争の主戦場になってほしくない、という考えがある。

 最近、岸田文雄首相がインドネシア、タイ、ベトナムを歴訪し、対ロシアで協調を求めたが、それは一筋縄ではないことが鮮明になった。

 今年11月のG20に議長国であるインドネシアのジョコ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領を招待するほか、ロシアのプーチン大統領が出席する予定だと明らかにした。

 これについて米国のバイデン政権は反発したが、ジョコ大統領は、世界は結束すべきで亀裂を生じさせるべきではないとの意思を示している。インドネシアも難しい外交のかじ取りを余儀なくされているのだ。

 こうした中、対露制裁で欧米と足並みをそろえる日本に対し、ASEANはどのように対応するのだろうか。

 これまでASEANは日本の国際政治における非権力的、非競争的な部分に好感を持ってきたはずであり、日本にとっても経済成長が見込まれるASEANは魅力的な市場であり、まさにウィンウィンの関係だった。

 しかし、大国間競争が激しくなり、日本も陣営固めを進める欧米と共同歩調を取るようになると、これまでの日本とASEANの経済関係にも政治の問題が浸透し始め、同経済関係にも摩擦や不和が生じ始める可能性があろう。

(オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学講師〈非常勤〉 和田大樹)