キーウ包囲できず兵糧攻めに失敗
旗艦撃沈でオデーサ上陸不能に

 ウクライナ軍との3カ月足らずの戦争で弱体を露呈したロシアは長期戦で衰退に向かうと思わざるを得ない。

 2月24日の侵攻以降を振り返れば、ロシア側は誤算と失敗続きだ。

 当初、プーチン大統領は国境地帯での大演習によりウクライナを威嚇して中立化させ、NATO諸国との緩衝とするつもりだったのだろう。

 だが侵攻前、国境地帯での演習に集まっていた部隊は実戦に十分なだけの予備燃料や弾薬・食料などを初めから持参していなかったから、越境して間もなく補給が不足し、60キロもの停滞が発生。そこを対戦車ミサイルで攻撃され大損害を受けた。

 首都キーウへは北のベラルーシからだと約200キロの道程だから、ロシア軍の先鋒は約1週間でキーウ郊外に到着したが、人口260万人の都市への突入は避けて、20キロ程の距離で遠巻きに包囲し、兵糧攻めで降伏させる戦術に出た。

 同市の北、東、西の3面に布陣したが、南部につながる交通上最も重要な南側でウクライナ軍の激しい抵抗を受け、包囲網は完成できなかった。

 3月15日には、ポーランド、チェコ、スロベニア3国の首相が包囲されているはずのキーウに列車で入り、ゼレンスキー大統領と会談するという珍事態も起きた。

 ロシア軍はキーウ陥落を諦めざるを得ず、その後、主力部隊を南下させてアゾフ海岸の港町マリウポリの制圧に投入した。ここでは3月初旬からロシア軍と親露派民兵が頑強に抵抗するウクライナ軍と戦闘を続けていたが、ロシア軍の主力が増援に入っても戦況が急変することはなかった。

 対独戦勝記念日になってもまだ右派民兵組織「アゾフ大隊」の一部はアゾフスタリ製鉄所の地下にこもって抗戦を続けた。16日にウクライナ兵265人が投降したが、マリウポリの攻防はロシア軍の苦戦の象徴として歴史に残るだろう。

 海上作戦でも4月13日に黒海艦隊の旗艦である巡洋艦「モスクワ」(1万1300トン)がウクライナ製の対艦ミサイル「ネプチューン」2発で撃沈され、他にも輸送艦2隻が焼失した模様だ。

「モスクワ」自体は艦齢41年の旧式艦だが、黒海艦隊司令官と参謀たちが乗った巡洋艦が撃沈された心理的影響は少なくない。実際、ロシアにとって「ネプチューン」の射程280キロ圏内にロシア艦船が入れば攻撃されるということになり、黒海岸のウクライナの主要港オデーサに対する上陸作戦は危険となった。

 5月9日時点でロシア軍の明確な戦果は、ドニエプル河口のヘルソン(人口36万人)の確保だけ、といえる状況だった。同市ではロシア軍と親露派が行政も始めているが、欧米からの新たな武器援助を受けたウクライナの反転攻勢が予想される中で、ロシア軍支配地域の最西端だけにウクライナ軍の奪回作戦の目標となりそうだ。