2012年10月30付の日経産業新聞で、伊フィアットの最高経営責任者が、自動車業界生き残りの条件として1社あたり「最低でも年600万台(の生産)が必要」と述べていた。その少し前に公表されたトヨタ自動車『アニュアルレポート2012』を参照すると、「競争力を生む国内300万台生産」が掲載されていた。

 600万台といい300万台といい、作るほうも大変だろうが、都心の道路を走らせるドライバーのほうも大変だ。スクラップされる車の数を差し引いても、都会の道路は混雑する一方である。

 年末年始、混み合うスーパーマーケットの駐車場で、フェンダーミラーぎりぎりに対向車とすれ違う。そのとき筆者が思わず「おっ!」と振り返ったのが、スバルのレガシィだ。

「スバリスト」と呼ばれるほど、富士重工業(本文では「富士重工」と略す)の車を支持する人は多い。「いい車だなぁ」と見惚れてしまう瞬間だ。

 日本自動車販売協会連合会「統計データ」を参照すると、トヨタ・日産・ホンダの三強に、スズキ・マツダが続いて、その後にようやくスバルのレガシィが登場する。

 自動車メーカーの売上高規模でいえば、富士重工は8社中、どん尻の8位だ。2012年3月期における販売台数は、国内外合わせて64万台にすぎない。1社で600万台や300万台といった数字と比べられると、富士重工はジリ貧メーカーだ。

 ところが、である。

 株式投資をしている人なら、ご存じであろう。富士重工の株価は、過去十年を振り返ってみても、いまが最高値にある。連日、高値を更新しているといっていい。絶好調企業なのだ。

 連載が100回ともなれば、ビッグメーカーを扱った大型企画の一つでも、と意気込むところだ。そうはいかない。大手の自動車メーカーの100分の1、または全世界シェアで1000分の1しかない富士重工にこそ、経営戦略を読み解く鍵が隠されている。その是非を、以下で問うてみよう。