これからのICT教育に
必要なことは?

 小学生の場合、ICT活用に人との触れあいが薄いというイメージがあり、教育現場には積極的に活用することに対するアレルギー反応があった。特に年配のベテラン教育者にコロナ前までは感じられたそうである。これが、小学校がICTの導入を躊躇する理由のひとつでもあった。

 だが、コロナ禍がきっかけになり、オンラインコミュニケーションやSNSなど、情報通信機器の利便性が幅広い年齢層に認められることとなった。

「子どもがタブレット端末に触れることへの大人の理解が深まった」。これは、私立の先生も公立の先生も取材で語っていたことである。

 これからのプログラミング教育やICT教育への追い風とも言えるが、冒頭のY氏からは「息子が持つタブレットはYouTubeが見られるんです。なので、帰宅後はYouTubeを見るために使われちゃっている!」という意見もあった。これからのICT教育は、いろいろな学校の事例を見ながら改善する点も多く出てくるだろう。

 また、同じ授業の枠内で進められるプログラミング教育と情報モラル教育だが、小学生にはまず情報モラルを教えることが優先かもしれない。インターネットが当たり前の現代社会では、フィッシング詐欺など大人でも危険を感じることが日々起こっている。

「小学校の授業でiPad」は効果的?大変?私立・公立校の教員6人に実態を聞く左は吉金氏の『ICTで変わる理科授業』(明治図書)、右は庄子氏と他2人の著者による『いちばんやさしいGoogle for Educationの教本』(インプレス)。どちらも、今の学校のICT教育に向き合った本だ

 AIの進化も伴って、情報が世界を熱くしている。大人自身がこれまでに体験したことのない時代と向き合い、高度情報化社会における子どもの教育は、国の経済発展に寄与する国家プロジェクトとして、日本だけでなく世界中で取り組まれている。

「これまでの学びに対する価値観を、学校だけでなく学校の外側にいる大人も変えていかなければいけない」――今回お話を伺ったどの先生も一同に、保護者や周囲の理解がICT教育を盛り上げていくには必要だという。ICT教育とは、点数に期待する教育ではなく、子どもたちそれぞれが持つ魅力的な資質「個才」を社会が受け止め評価する教育なのだ。そして、子どもたちは「個才」を育み創造的思考をすることで、これからの社会をもっと豊かに生きることができる。

「学習指導要領の改訂実施から2年、全児童への端末配布から1年が経過した小学校では、ICT教育の切実な問題が浮かび上がっているのではないか」と始めた取材だが、問題はむしろ学校の外側にいる昔の教育の価値観から抜け出せない大人にあることが分かった。

(まついきみこ@子どもの本と教育環境ジャーナリスト/5時から作家塾®)