「“何を言ったか”よりも、“誰が言ったか”が重要である」

 以前、ある企業の社長が筆者にこう話してくださったとき、とても納得させられた記憶があります。確かに同じ内容であっても、発言した人によって信用の度合いは大きく変わります。そのとき、信用を担保するのが、「肩書き」ではないでしょうか?

 ただし、肩書きを過剰に信用すると痛い目を見るのも事実です。また、その肩書きを得るために手段を選ばない態度に出れば、周囲から冷たい目で見られるかもしれません。

 そこで今回は、社内でスムーズに仕事をするためには本当に肩書きが必要か、あるいは相手の肩書きを重視して仕事をした方がいいのかをみなさんと一緒に考えてみたいと思います。

みんな“肩書き”に騙された?
iPS細胞詐称事件の森口尚史氏

 2012年末、「今年を振り返る」といった話題で必ず登場したのはノーベル賞を受賞した京都大学・山中伸弥教授でした。ただ、おまけのように登場したのがこの偉業に水を注した森口尚史氏です。天下の大新聞も騙されてしまったことからも、いかに我々が肩書きに弱いかが分かります。振り返ってみると、取材をしていた記者などは、森口氏が『東京医科歯科大学医学部卒』という経歴を持ち、『東大病院特任研究員』を務めていたという肩書きに騙されてしまったのかもしれません。

 実際、森口氏は東京医科歯科大学医学部を卒業していますが、保健衛生学科看護学の専攻で、医師免許はありません。医学部に看護学科が併設されていることを知らない人は、「医学部卒」とだけ聞けば医師だと思うかもしれません。

 そうしたトリックをいいことに、世間には錯覚をさせるような言い方をする人もいるようです。要は肩書き(学歴・社名・役職)によって、信頼を大幅に上げてしまうのです。

 結果として、「あの人は東大で働く“医者”だから、信用しても間違いない」という先入観が生まれ、「心の隙」ができてしまうのでしょう。

 ちなみに、森口氏が医師でないとわかっていたら、どうだったでしょうか?年末に20代のビジネスパーソン数人に取材してみたところ、

「もし医者でないとわかっていたら、誰も注目しなかったでしょう」

 と満場一致で答えてくれました。