米アップルは新チップ「M2」を発表
世界のネット業界は「ウェブ3.0」へ

 現時点で、世界の半導体不足がすぐに解消される展開は想定できない。メモリ半導体の分野ではDRAMの価格が下落し始めているが、それ以上にパワー半導体やマイコン、次世代半導体の需要が急増している。

 例えば、米アップルは新しいチップである「M2」を発表した。M2は5ナノメートルの回路を搭載し、競合チップの2倍近い性能を持つ。

 世界のネット業界は、GAFAなどが一手にサービスを提供してビッグデータを事実上タダで手に入れる「ウェブ2.0」から、ブロックチェーンを用いて個々人が自分のデータを管理するようになる「ウェブ3.0」に向かう。チップの演算能力や消費電力性能の向上はビジネスチャンス獲得に不可欠だ。次世代チップ開発を強化するアップルはそうした見方を強めている。

 その一方で、半導体の供給能力の向上には時間がかかる。直近で、世界の半導体供給が様変わりし始めた。例えば、TSMCは台湾や中国で生産能力を強化し、成長を実現した。しかし、台湾海峡の緊迫感が高まる中でTSMCが台湾を拠点に事業運営体制を強化し続けることは難しい。

 ゼロコロナ政策の長期化や米中対立の先鋭化などの懸念を背景に、中国一辺倒の事業体制を見直し始める企業も増えた。ウクライナ危機の長期化懸念も高まっている。一朝一夕に供給能力を引き上げることは難しい。

 インテルやASMLのトップは、「半導体不足は24年前半頃まで続く」と予想している。生産ラインの争奪戦が予想される中、わが国の主力産業である自動車の生産は停滞基調で推移する可能性が高い。

 コロナ禍と脱グローバル化による半導体不足を克服するために、わが国企業はサプライチェーンの再編を迅速に進めつつ、新しい需要を創出して半導体メーカーとの交渉力を強化しなければならない。世界的な新しいヒット商品の創出によって競争力を向上するという意味では、本邦企業の実力がこれまで以上に試されることとなる。