ただ、年を取っていいことは何もないという考え方に対しては、私は決してそんなことはないと思いますし、むしろこれからが人生の本番だという考えをもっています。

 私自身71歳にもなると、もの覚えが悪くなったなとか、気づくとあれもこれもできなくなっているとか、「年を取るというのは、こういうことか」と感じることはしばしばありますが、だからこそ、「いよいよ自分も人生の総仕上げの時期に突入したんだな」と思って、やる気がみなぎってきます。

 仮に年を重ねることがよくないことばかりだとすれば、極端なことをいえば、「人生60年」といった昔のように、寿命なんて短くてもいいじゃないのということにもなりかねません。

 ちなみに平均寿命は、ここ100年ほどの間に驚くほど伸びています。明治時代は43歳程度、江戸時代はおおよそ31歳、もっともっと遡(さかのぼ)って縄文時代なんかは18歳くらいだったそうです。

 それを考えると、長生きをすると、昔の人がしたくてもできなかったいろいろなことができるわけで、私なんかは「ありがたいなあ」と思いながら、毎日を過ごしています。

 ある著名な医師の方が「人生後半は下り坂なんかじゃない。むしろ最後まで人間はのぼり詰めて、頂点で死ぬんだ」とおっしゃっていましたが、「なるほど、いいことをいうなあ」と思って聞いていました。

 死ぬまでのぼり続けていくというのは、ちょっとしんどい気もしますが、ある意味、真実だと私は思います。

 だって、人は生きている限り、なんらかの経験を絶えず積み重ねていきます。自分が経験することの数は死ぬまで増え続けるわけですから、それに比例して、感動する回数も増えますよね。

 私も舞台が終わって、お客さんが嬉しそうに拍手をしてくださると、「もう死んでもいい」と思うほどの気持ちになります(本当に死んだら困りますが)。

 舞台でなくとも、畑に実った野菜を収穫して近所の方たちに配っているとき「わあ、ありがとうございます!」とお礼をいわれるだけでも、「生きててよかったなあ~」と満たされた気持ちになります。

 このように生きている限りは人の役に立てて、幸せを感じる瞬間があるわけですから、「人間は頂点で死ぬんだ」という医師の話は、なるほどその通りだなと思わされるのです。

 そして70代というのは、おそらく健康で毎日を過ごせるラストチャンスの10年になるかもしれません。だからこそ、この10年間の過ごし方で「人生が決まる」といっても過言ではないと思うのです。

人生はいいことばかりではない
それでも「のぼり続けていく」

「もはや自分で野菜をつくる体力がなく、寝たきりになった場合も、人生はのぼり続けられるのですか?」

 そんな声が聞こえてきそうです。

 私の答えは、もちろん「イエス」です。

 寝たきりになったり、要介護状態になった場合は、人の助けが必要となります。誰しも、必ずそのような状態になるのです。そういうときは、お世話してくれた人に対して、心から「ありがとう」といえばいいのです。そうすると、お世話してくれた相手は「喜んでもらえてよかった」と嬉しく感じるはずです。

 相手にそのような気持ちになってもらうことで、あなたも相手に感動を与えているのです。

 もちろん、人生はいいことばかりではありません。