長く生きていれば、それだけ家族や親しい友人の死に直面する回数は増えるでしょう。それに比例して、涙を流すことも多くなるはずです。

 でも、旅立った人たちに泣きながら「今まで、ありがとう」と感謝の念を抱けば、その人は精神的に「のぼり続けていく」といってもいいんじゃないかと思うのです。

70歳からはプライドを捨てて、
カツラだけ残す

 年を取ると、義理や人間関係、モノや名誉……いろいろなものを捨てていったほうがいい、という人がいます。私も、その考えには賛成です。

 私の場合は、全部捨てて、カツラだけ残す。それは冗談として、捨てられるものはできるだけ捨てて、背負っているものは軽くしていくほうが、老後の人生はむしろ充実していくような気がします。

 義理でも人間関係でもモノでもプライドでも、あればあるだけさまざまな執着が生まれて、窮屈(きゅうくつ)になるものです。年を取ってきたら、そうしたものから解放され、もっと身軽に、気楽に生きたほうがいいと私は思います。

 人間には、意識していなくても、自然と捨てているものがあります。「若さ」です。

 年を重ねること自体、すでに「若さ」というものを、どんどん捨てていくことに他なりません。

 たとえば、70歳の人間は、50年前の若さも、30年前の若さも、10年前の若さも、3年前の若さも、全部捨ててしまっているわけです。高齢になれば、膨大な若さの時間を捨ててきている。

 若さというのは、何物にも代えがたい宝のような時間だと思います。そんなものをたくさん捨ててきているわけですから、義理やモノや名誉を捨てることなんて、それに比べると、どうということはない気がします。