国民皆保険でないから、医療格差も大きいわけで、住むには安定していない国です。人種差別も、日本人にはなかなか理解が難しいですね。そして、うそをつき、暴言も吐きまくるトランプが大統領になれた背景には、人種差別があると私は考えています。

トランプはなぜ人気があるのか?
米国社会特有の事情とは

――トランプ信者の90%以上は白人だそうですね。

 2016年の大統領選で、共和党はヒスパニックの支持者を増やそうと、ジェブ・ブッシュ(ジョージ・ブッシュ元大統領の弟で、妻がメキシコ系)やヒスパニック系のマルコ・ルビオらを擁立しようとしました。白人の人口は減るばかり。黒人の多くは民主党を支持していますから、ヒスパニックを取り込みたかったのです。しかし、これに白人たちが怒りました。ヒスパニックは伝統的なウエスタン・カルチャー、つまり、白人のカルチャーを共有していない。だから受け入れたくなかったのです。そこに出馬表明をしたのがトランプです。「メキシコ人は強姦犯であり、麻薬や犯罪を持ち込む」という言葉とともに。

 また、トランプの前に8年間、大統領を務めたオバマは黒人です。共和党の保守派はオバマに散々嫌がらせをしました。この黒人大統領政権が8年続いたことも、トランプ大統領誕生に大きく関係したと思います。

 トランプ政権で国防長官を務めたジム・マティスはのちに、「トランプは、私の生涯で、アメリカ人を団結させようと努力しない、いや、そのふりさえしようとしないただ一人の大統領だ」と述懐しています。トランプが望んでいるのは幅広い世論の支持ではなく、投票してくれる鉄板支持者を固めることなんです。そうすれば、好き勝手に振る舞えますから。トランプの言動の基準は常に「損か得か」や「ギブ・アンド・テイク」、そして「好きか嫌いか」です。大統領として「こうあるべきだ」というような発想はしないのです。

「トランプは“終わった人”ではない」、潜入ジャーナリストが語る大統領返り咲きの可能性共和党選挙ボランティアとして、1000軒以上の家庭を訪問した

 たとえば、中絶問題。日本人にはあまりピンときませんが、米国では中絶を容認すべきか否か、というのも非常に重要な政治問題の一つです。トランプは、中絶を認めない「生命尊重派(プロライフ)」の立場を取っていますが、元々は「中絶擁護派(プロチョイス)」でした。トランプに政策はないんです。選挙に得だと思えば、いとも簡単に主張を翻す人物なんですよね。

 また、先日、テキサス州の小学校で21人が殺害される銃乱射事件が起きました。その直後に同州で開かれた全米ライフル協会(NRA)の年次総会で、銃規制に反対するスピーチをして話題になっていました。これも動機は簡単で「票につながるから」。それだけです。

 そんなトランプには、米国民に団結を呼びかけるという選択肢はない。選挙に勝つために、白人保守層の歓心を買うというのが、彼のとった戦略なのです。

24年の選挙で再選されれば
トランプはさらに暴走する恐れも

――なるほど。トランプも白人保守層を必要としたし、白人保守層もまた、トランプを必要としたと。横田さんは共和党の選挙ボランティアに潜入して、1000軒以上もの家庭を訪問しました。トランプ信者の家庭だと、横田さんがファクトチェックした事実を提示しても「それはフェイクニュースだよ」の一言でバッサリ切られて、対話にならない様子が印象的でした。

 そうなんです。これはトランプ話法そのものでもあるんですが、これだと話し合いにならないですよね。トランプのフェイクニュースの定義は「自分が気に入るか否か」。気に入らない言論はすべてフェイクニュースで、信者たちは、それをそのまま信じる。これでは、米国社会の分断は進むばかりです。