プロパガンダに乗せられやすい日本人は自ら窮地に陥る

 リテラシーがないと日本人は、戦争プロガンダに乗せられて相手の戦力を過小に見積もったり、自国の軍事力を過大評価してしまう。そして、世論が暴走する。好戦的な国民の顔色をうかがう政治や自衛隊が誤った判断をして、国防の最前線にいる自衛官の皆さんに危機をもたらす恐れもあるのだ。

「そんなバカなことあるわけがないだろ」と言う人もいるが、実は80年前も同じようなことを言いながら、プロパガンダに乗せられた世論が暴走して、すさまじい数の人々が犠牲になっている。

 例えば、太平洋戦争中のマスコミは盛んに、「アメリカ人は個人主義で、国に対して命を捧げる気がないのですぐに厭世ムードが漂う」と根拠ゼロの戦争プロパガンダを流していた。アメリカ軍の戦力を過小に見積もり、日本兵の強さをひたすら説いた。

 当時の日本人はピュアだったので、新聞やテレビで繰り返しそんなニュースを聞かされているうちに、「そうか、日本人の根性を見せれば、アメリカなど恐るるに足らんのだな」と刷り込まれ、現代人からみると狂気の沙汰としか思えない精神論が広まった。

 例えば、欧米の兵士たちが当たり前のようにした「投降」を、日本の兵士はしなかった。これは上官から命じられていたということもあるが、何よりも投降をすると、その情報が故郷にも届き、「あそこの家の息子は、アメリカに命乞いをした売国奴だ」などと家族までバッシングに遭うことを恐れたことも大きい。民間人も米軍から投降を呼びかけられると、集団自決した。

 現代の「マスク社会」がウイルスよりも「周囲の目」を恐れた同調圧力によるもののように、戦時中の人々も「周囲の目」に非国民として映ることを恐れた同調圧力で、玉砕や自決をしていたのだ。

 このほかにも、日本のマスコミは太平洋戦争中、正しい情報を伝えず、国威発揚のためのプロパガンダばかりを流して、多くの国民を死にいたらしめたケースは枚挙にいとまがない。

 …という話をすると、マスコミのみなさんは決まって「軍部が怖くて逆らえなかった」みたいな被害者ヅラをする。しかし、厳しい言論弾圧をされたのは敗色濃厚になった1944年くらいからの話で、それまでは軍から命令されるまでもなく、自ら率先して、愛国美談をあおりまくっていた動かし難い事実がある。

 現代のオリンピック報道と同じく、「日本人スゴイ」「世界が賞賛」みたいな話を盛れば盛るほど、新聞の部数が増えていった。当時を覚えている人間の多くが鬼籍に入っているので、自己正当化をして歴史を修正しているだけで、戦時中のマスコミがビジネス的なメリットから、率先して戦争に「協賛」していた事実は消すことはできないのだ。

 ウクライナの「戦争報道」をしっかりと検証していけば当然、自国の戦争報道とも地続きなので、そのような過去の過ちとも向き合うことができる。

 2016年、NHKスペシャルで、「そしてテレビは“戦争”を煽った」が放送された。これは、2014年のクリミア併合時、ロシアとウクライナ双方のメディアが根も葉もない報道をして、国民の憎悪をあおっていたのかということに迫った、非常に良質なドキュメンタリー番組だった。

 今回もあのような形でやってみたらどうか。題して、「そして日本のマスコミはウクライナ戦争を煽った」――。賞賛間違いなしだと思うのだが、どうだろうか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)