認知症の早期発見・進行予防に
光明が差し込んだ

大塚教授東京女子医科大学・大塚邦明名誉教授

 教えてくれたのは、東京女子医科大学名誉教授の大塚邦明氏。宇宙医学から線虫によるがん検査まで、幅広い造詣を持つ内科医であり、東京女子医科大学東医療センターの病院長も務めた名医である。とりわけ老年医学には注力しており、時間医学老年総合内科(寄付臨床研究部門)を主催している。

 認知症予備軍のことを、医学界では軽度認知障害(mild cognitive impairment、MCI)と呼んでいる。軽度認知障害は放置しておくと1~2年後にアルツハイマー病に進行してしまうため早期発見は極めて重要なのだが、それが実は難しい。前述のアデュカヌマブも、早期であればあるほど治療効果が望めるため早期発見が重要なのだが、確実に見つけるには「アミロイドPET検査」という超高額な検査(例えば某PET診断センターでは税込み22万5000円)が必要だといわれている。

 それでもMCIを早期に見つけたら、ちゃんと治療できるというなら話は別かもしれない。だが、仮に見つかったとしても病気の進行を遅らせるだけ(現状の薬の効果)しかできないのだとしたら、検査のハードルはあまりにも高過ぎるし、早期発見は早期絶望になりかねない。

 この現状に光明をもたらしたのが、大塚教授らのグループだ。

「効果のある薬剤はまだ見つかっていませんが、早期発見し、適切な生活治療を施せば、健常人に回復することも珍しくはありません。そのため、(早期発見は)医療にとってとても重要な課題です。ところが、これまでそのためのツールとしては、モントリオールから出されたMoCAしかありませんでした」(大塚教授、以下同)

 MoCAとは、モントリオールの大学のグループが2005年に考案した軽度認知症診断ツールのことだ。10~20分ほどで終えられる30問の簡単なテストで、認知症の評価に役立つ。25点以下がMCIで、感度(患者を発見する精度)80~100%、特異度(健常者を見分ける精度)50~87%といわれる。

 ただ、日本人向けに開発された検査ではないため、大塚教授らはより高い精度を目指して6年前、ToCA(東京版のMoCA)を開発。2000年から北海道の浦臼町(人口1671人、22年5月末時点)において、フィールド医学調査の一環として町の保健センターと協同で実施してきた物忘れ健診に取り入れた。

「MCIを早期発見し、認知症に移行しないための小さな取り組みでしたが、驚くべき成果が得られました」