今後もヒト・モノ・カネの海外流出は増加

 今後も若年層を中心に中国の失業問題は深刻化するだろう。中国では経済全体で資本の効率性が低下している。

 まず、不動産バブル崩壊によって「灰色のサイ」と呼ばれる債務問題の厳しさが増している。共産党政権は恒大集団など債務返済能力が大きく低下した不動産デベロッパーに公的資金を注入して金融システムの健全化を目指さなければならない。

 しかし、公的な救済措置の発動は民間企業の創業経営者を救済することになるため、共同富裕の考えに逆行する。結果的に不動産バブル崩壊はさらに深刻化せざるを得ない。それによって、土地の利用権の売却益は減少し、財政運営が難航する地方政府も増えるだろう。

 IT先端分野の民間企業の締め付けも強められる。8月からは改正独占禁止法が施行され、データ利用などに関する罰則が強化される。貧富の格差の拡大をなんとしても阻止するために、共産党政権は改革開放の果実として成長した民間企業に対する統制を強めなければならない。

 習近平政権の経済運営は、成長期待の高い分野のアニマルスピリットを伸ばすのではなく、カンナでそぎ落としているかのようにみえる。そうして浮き出た資金を、貧困や失業問題に直面する層に配分し、社会の閉塞感の解消を目指す「ポーズ」を示している。

 他方で、ゼロコロナ政策の長期化懸念、台湾海峡の緊迫感の高まり、半導体や人工知能など先端分野を中心とする米中対立の先鋭化リスク上昇などを背景に、中国から逃避する資本は増えるだろう。ウクライナ危機によるインフレ懸念の高まりが加わることによって、人民元で保有してきた財産を海外に持ち出し、その価値を守らなければならないと危機感を急速に強める国民も増えるだろう。

 習政権にとって、人々の自由な発言や行動を認め、人材や資本を中国国内につなぎ留めることは容易ではない。それよりも習氏は長期の支配体制の確立に向けて社会と経済の統制を強化している。今後も、中国のアニマルスピリットは減殺されてヒト・モノ・カネの海外流出は増加し、雇用・所得環境は悪化するだろう。