「加工貿易立国」から「投資立国」へ
グループ全体の経営資源を把握せよ

 日本企業による海外展開は、実に長い歴史を持ちます。

 江戸幕府による鎖国政策が解かれると、フロンティア・スピリットにあふれた商人たちが、数多く海外に渡りました。

 明治の中期以降は、南洋ブーム(南方への商業的進出)が起こり、三井、三菱をはじめとする財閥系などが、ゴム栽培事業や鉱山開発を目的に、先を競って海外へ進出しています。もしかしたらこの頃が、国も企業も個人も、もっとも外向き志向だったのかもしれません。

 戦後は、みなさんよくご存知の通り、輸入原材料で作った製品を、海外に輸出して稼ぐ、「加工貿易立国」から再出発します。しかし、1980年代後半には、通商摩擦や円高の影響によって、現地生産へと移行し、産業の空洞化が問題となりました。

 その後、2000年代に入ると、海外市場を開拓する、「現地市場獲得型」の海外進出が増えます。

 こうして見ると、規模もスピードも物足りないとはいえ、グローバル化に向けた歩みは、古くから日本企業にもあったことがわかります。

 しかしここに来て、「グローバル経営」の意味合いが大きく変化しています。

 これまでが、国内事業に上乗せするプラスαの位置付けであったとすれば、ここから先は、開発するのも、作るのも、売るのも、(会社を)回すのも、「日本以外の世界のどこか」が主戦場となります。

 事実、日本の対外直接投資額は、パンデミックの影響はあるものの、基本的には伸び続けています。規模の大小問わず、M&Aが増えていることがひとつの要因で、海外企業の買収を足がかりにグローバルに挑戦、あるいはさらなる展開を図るケースが目につきます。

 輸出で稼ぐ「加工貿易立国」から、投資した海外資産によってリターンを得る「投資立国」へと転換した以上、経営上の重要課題も変わってきています。

 海外法人も含む、グループ全体の経営資源(ヒト、カネ)を把握して、グローバルで最適配分することや、適切なリスクを取るために、精度の高いリスクマネジメントを行うこと。これらは、グローバルに投資して事業を展開する以上、最低限クリアしておくべきことです。

 また、こうしたグローバルマネジメントで中心的な役割を果たすのは、日本人とは限りません。率直に言えば、日本には恒常的にグローバル経営人材が不足しており、今後、人口減少も加速する状況下では、必然的に海外の人材をあてにせざるを得ないのです。グローバルの戦いは、ビジネスのみならず、人材獲得の戦いでもあります。

 あらためてこうして整理してみると、とても高いハードルではありますが、「縮む国・日本」においては、とんがり(最先端)、しんがり、アップグレード、リノベーションなど、産業における企業の役割分担を、ある程度はっきりとつけることが、次の20年、30年、さらにその先の未来を、失わないための選択肢なのかもしれません。