上司は独身男性
悪気なく「本当に保育園からの呼び出しなの?」

 一方、水沼芽依さん(52歳、仮名)は、子どものスケジュールを職場でオープンにするまでに至った。

 女子大の英文科を卒業した水沼さんは、新卒で貿易会社に入社した。得意の英語で海外とやりとりするのは面白く、小さい頃から憧れていた理想の仕事だった。だが、時差のある海外との仕事は、子どもを持ったら続けられないと思っていた。入社3年目あたりから海外出張も増え、仕事はますます面白くなっていったが、将来を見据えて転職を考え始めた。

 その後、28歳で中堅の住宅メーカーの調達部門に転職。海外とのビジネス経験が買われて採用された。新しい職場でも海外とのやりとりはあったが、時差の少ないアジア圏が主流のため、前職のような早朝や深夜の業務はなくなった。転職した翌年に結婚し、待望の子どもを授かったのは34歳だった。

 水沼さんの上司は独身男性で、最初は子育てしながら働く女性の大変さを理解してもらえなかった。しょっちゅう保育園から呼び出しがあることに驚いて、悪気なく「本当に保育園からの呼び出しなの?」とさえ聞いてきた。

 ある日、職場に保育園から緊急連絡が入り、水沼さんの子がけがをしたという電話をたまたま上司が受け取った。けが自体はたいしたことはないが、子どもが動揺しているので迎えに来てほしいという保育士に、上司はあれこれ話を聞いたという。会議から戻った水沼さんは、「別の会議があるのでそれも終わったら早退してもいいですか」と聞くと、上司は「すぐに帰りなよ」と言ってくれた。

 それ以降、上司は水沼さんとの定期面談で、仕事だけでなく子どものこともよく聞くようになった。上司は子を持つ母親を理解しようと努めてくれていたのだ。その後、水沼さんは上司と相談して、子どもや家庭のスケジュールを部内でオープンにすることにした。係長の立場にあった水沼さんは、最初、そこまですることに遠慮もあったが、上司の、「その方がみんなもやりやすいから」の一言で、部門内の共有スケジュールに子どもの行事も書き込むようにした。