中高一貫校「横浜雙葉」、創始者来日150年の節目に異色経歴の校長が就任全校生徒が収容可能な講堂。緞帳(どんちょう)に書かれた文字は、姉妹校と同じくする校訓「SIMPLE DANS MA VERTU  FORTE DANS MON DEVOIR」(徳においては純真に、義務においては堅実に)

外国人居留地として始まった山手の地にある横浜雙葉学園。小中高と姉妹校のサン・モール・インターナショナルが隣り合って、この横浜の丘で1世紀以上の歴史を刻んできた。2022年は、学園の創始者であるマザー・マチルドが来日してから150周年の節目となる。マザーとは、指導的な修道女(シスター)に対する呼称である。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)

中高一貫校「横浜雙葉」、創始者来日150年の節目に異色経歴の校長が就任

木下庸子(きのした・ようこ)
横浜雙葉中学高等学校校長

横浜雙葉中学高等学校校長。横浜市生まれ。横浜雙葉高校、上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業。筑波大学大学院地域研究研究科修士課程で中南米の研究を行い、ペルーのリマとクスコの大学に留学。修了後、「カトリック新聞」の記者に。1995年の阪神・淡路大震災の取材を最後に記者職を辞し、母校の社会科教員となる。2022年4月より現職。現在は宗教科を担当。

 

南米クスコで直面した貧富の差

――先生は横浜雙葉のご出身で、卒業後はどんな勉強をされたのですか。

木下 当時まだ中高にいらしたシスターの影響もあって、私は「平和のために働くこと」を夢見ていました。中高で英語とフランス語を学んだので、大学ではスペイン語を選び、大学院では中南米の地域研究を専攻し、国際関係の仕事を目指しました。

 ある留学奨学金の選考面接で、他の応募者はロンドン大やハーバード大を希望する中、1人だけ南米の大学というのが面白いと合格したようで、2年弱滞在させていただきました。

――どちらの国に行かれたのですか。

木下 最初はペルーの首都リマに行って、アンデス文明について研究するため、博物館でデッサンし、砂漠で昔の土器の破片などを発掘調査していました。ところが、現地の人々を見ていると貧富の差が大きく、昔のことばかり研究していてよいのかと思うようになりました。貴重なアンデス文明の継承者であるインディオの人たちが貧しく、差別されていたためです。

 そこで、途中から標高3400mの所にあるインカ帝国の古都クスコの大学に移りました。こちらで現地調査を行う中で多くの出会いがあり、人類学を学ぶ過程で、人が生きていく上で大切なことは何かを考えさせられました。それまでの私の価値観が、ここで大きく変わってしまうほどの影響を受けました。

 余談ですが、大学が休みの間は南米の最南端までリュックを背負って旅したり、頼まれてガイドにもなりまして、マチュ・ピチュの遺跡には20回くらい行きました(笑)。

中高一貫校「横浜雙葉」、創始者来日150年の節目に異色経歴の校長が就任[聞き手] 森上展安(もりがみ・のぶやす)
森上教育研究所代表。1953年岡山生まれ。早稲田大学法学部卒。学習塾「ぶQ」の塾長を経て、88年森上教育研究所を設立。40年にわたり中学受験を見つめてきた第一人者。父母向けセミナー「わが子が伸びる親の『技』研究会」を主宰している。

――帰国されてから大学院に戻られた。

木下 インディオ文化の持つ現代における意味について、修士論文を書きました。好評をいただきましたが、そろそろ社会に出て働きたいと思い、たまたま求人に載っていた小さな新聞社に応募して就職しました。

 記者として10年ほど、教会が関わる人や支援する人を取材して全国を訪れました。すると、今度は日本社会の矛盾に目が行くようになりました。この経験も私を人間として成長させてくれました。

――それから教員になるのですか。

木下 阪神・淡路大震災が、記者として行った最後の取材でした。その少し前から、記事を通してよりもむしろ、人に会って直接伝えることが自分には合っている、特に、若い人と一緒に考えたいと思うようになりました。そこで、教員になろうと思いました。ちょうどその時、横浜雙葉で定年を迎える社会科の先生がいらして、その後任になることができました。

――さまざまな経験をされた先生の授業は面白かったんでしょうね。

木下 そうだと良いですね(笑)。教員としては回り道だったかもしれませんが、自分が高校時代に思った「平和のために働くこと」を直接実現できなくとも、生徒たちが卒業してさまざまな分野で活躍し、他者とともに世界とつながりながら、平和な未来を築くために活躍する姿に感謝する日々です。

中高一貫校「横浜雙葉」、創始者来日150年の節目に異色経歴の校長が就任毎朝生徒を迎える正門脇の聖母マリアと幼子イエスの像(左・写真提供:横浜雙葉中学高等学校)。校舎入り口に掲げられた校章は全国5校の姉妹校に共通のもの(右)