ただし、留意点が2つある。

 第一に、政府も、インフレ目標の達成で日銀との協調を図るなら、電力料金をはじめ公共料金の値上げを極力抑制したり、公務員給与を大幅にカットするといった政策姿勢は見直すべきだろう。公共料金の動きは、日米のインフレ格差要因の一つになっている。

 第二に、今後の世界経済情勢次第では、先進国の政策枠組みは大きく変わる可能性があることを認識しておく必要がある。インフレ目標についての日本での議論はトラック競技で言えば「周回遅れ」になっている。現状、主要国中央銀行は「柔軟なインフレ目標」型の政策を採用しているものの、この枠組みはそろそろ「賞味期限切れ」が近い。

 主要国で先頭を切ってインフレ目標を採用した英国では、インフレ目標至上主義的な政策運営から、目標からの乖離を長期間、容認する運営に変わり、さらに最近ではBOE(バンク・オブ・イングランド)次期総裁の講演をきっかけにインフレ目標政策からの離脱が大きな議論になりはじめている。インフレ目標の限界が表面化するなかで、学界でも、例えば、ジェフェリー・フランケル(ハーバード大)が2012年5月にブログで「インフレ目標の死」と題してこの政策への「弔辞」を書くなど、有力なマクロ経済学者に見直し論が広がっており、学界・中央銀行サークル双方で新たな政策枠組の模索が続いている。

円安誘導のメリットと政策効果

 しかし、インフレ目標の設定以上に安倍政権が重視しているように見えるのは為替レートの円安誘導である。筆者は、もともと景気刺激策としての円安誘導や円高阻止のメリットを強調してきた。いうまでもなく、円安になればとりあえず企業収益は好転し、物価にも上昇圧力がかかる。

 日銀在職中、どうすればそれが実現できるかについてある種の焦燥感をもって頭を悩ませ、幾つか提言をしてきた。後の議論と密接に関連するので、円安誘導に関して筆者が日銀在職中の1999年から2001年に対外公表した2つの提言の骨子を挙げておく。