壁を超えたら人生で一番幸せな20年が待っていると説く『80歳の壁』が話題になっている今、ぜひ参考にしたいのが、元会社員で『島耕作』シリーズや『黄昏流星群』など数々のヒット作で悲喜こもごもの人生模様を描いてきた漫画家・弘兼憲史氏の著書『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)だ。弘兼氏のさまざまな経験・知見をもとに、死ぬまで上機嫌に人生を謳歌するコツを説いている。
現役世代も、いずれ訪れる70代、80代を見据えて生きることは有益だ。コロナ禍で「いつ死んでもおかしくない」という状況を目の当たりにして、どのように「今を生きる」かは、世代を問わず、誰にとっても大事な課題なのだ。人生には悩みもあれば、不満もあるが、それでも人生を楽しむには“考え方のコツ”が要る。本書には、そのヒントが満載だ。
※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』より一部を抜粋・編集したものです。

【漫画家・弘兼憲史が教える】<br />笑うに笑えない、ありふれた悲劇<br />「お金なんて残すな」と断言するワケ作:弘兼憲史 「その日まで、いつもニコニコ、従わず」

念願の二世帯住宅を完成させた“悲劇”

ある人から、こんな話を聞きました。その人(Aさん)は、サラリーマン人生をまっとうし、リタイア後はそれなりに慎ましくも楽しく暮らしていました。ところがあるとき、息子夫婦から次のような提案を受けました。

「子どももできたし、新しく家を建てようと思うんだ。ついては頭金2000万円を出してくれないか。二世帯住宅にして、お父さんたちの部屋も作るからさ」。Aさん夫婦にとって、2000万円は老後資金そのもの。ほぼ全財産といえます。

「オレたちの老後の生活はどうなるんだ?」と不安に思って尋ねると、息子はこう答えます。「大丈夫だよ。オレたちがちゃんと面倒を見るから」。そんなわけで、交換条件が成立。Aさんが息子夫婦に虎の子の老後資金を渡すと、しばらくして念願の二世帯住宅が完成しました。

理想と現実のギャップに生活が破綻

いざ引っ越しをしてすぐ、Aさんは異変に気づきます。まず、思っていたより自分たち夫婦の居住スペースが狭いことです。事前に図面を見せられたときには、もっと広かったような記憶もあり、息子に丸め込まれてしまったような気がしてなりません。

もう一つの見込み違いは、お嫁さんとの折り合いが悪くなってしまったことです。どうやら息子は、二世帯住宅にする提案をお嫁さんに十分納得してもらわないまま、半ば強引に押し切ってしまったらしいのです。

お嫁さんの態度からは「しぶしぶ一緒に暮らしている」という感情がみえみえで、いつの間にか関係もギクシャクしてしまいました。居たたまれなくなったAさん夫婦は、新築の二世帯住宅を出ることを決断。今は、小さなアパートを借りて年金生活をしています。

ありふれた、笑うに笑えない悲劇

別居を決めたのはAさん自身ですが、後になってから「息子は最初からこうなることを見越していたのでは?」「後からお嫁さんの顔を立てて、オレたちを体よく追い出したんじゃないか?」という憶測もわいてきて、モヤモヤする日々。後になって悔やんだところで、もうお金は戻ってきません。

頼みにしていた老後の資金がなくなり、Aさん夫婦は不安を抱えながら、細々と毎日を過ごしています──。このAさんの事例は、いってみればありふれた悲劇です。

「結婚式の費用」「孫の教育資金」など用途は違えど、似たり寄ったりの話が全国あちこちで起きているのです。「老後の面倒」をあてにした結果、老後不安をさらに大きくしてしまうなんて、笑うに笑えない悲劇です。

親は親、子は子

僕は、子どものために必要以上にお金を使ったり残したりすべきではないと考えています。「親は親、子は子」で自分の人生に責任を持つのが原則です。

「オレはお前たちの世話になるつもりはない。その代わり、自分で作った財産は自分たちで使わせてもらう。後はお前たちで好きなように生きろ」

そんなふうに、きっぱりと宣言してしまったほうが、お互いに甘えず自立した人生を歩めるはずです。

※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。ぜひチェックしてみてください。