AI導入を企業戦略に組み込む際の
3つのポイント

 以前、自動車業界のサプライチェーンを視察すべく、中西部のオハイオ州やミシガン州の工場を訪れたときのことです。どの工場も、ロボット導入に合わせ、ビデオ画像やセンサー、そのビデオ画像やセンサーから送られるデータを分析するための新しいコンピュータシステムなど、デジタル化全般への投資を行っていました。もちろん、人的資本への投資も抜かりなく、ロボット駆動のソフトウエアに熟知した人材を採用していました。

 つまり、ロボット活用においても、「補完的資産」全般への十分な投資が必要なのです。国際ロボット連盟(本部・独フランクフルト)によると、産業用ロボットアームを1台導入したら、平均でその約3倍の額を、ビデオカメラやセンサー、ハードウエアやソフトウエア、そして、人的資本に投資しなければならないといいます。

 仮に1台2万5000ドルのロボットアームを導入するとしたら、7万5000ドルを補完的資産に投じる必要があるわけです。新しいテクノロジーの導入を軌道に乗せるには、そのくらいのコストをかけなければならないということなのです。要は、補完的資産への投資がものを言うのです。そうすることで初めて、新たに導入したテクノロジーが生産性向上や雇用増につながるのですから。

 AIに関していえば、前述の通り、とりわけ優秀なエンジニアの採用といった人的資本への投資が重要です。必ずしもAI開発の知識はエンジニアに必要ありませんが、自社の生産システムで使われている既存のテクノロジーにAIを組み込み、活用する方法を見いだすための、スキルが求められます。

――若い外国人や移民のAIエンジニアがたくさんいる米国企業と違い、日本企業は、優秀なエンジニアの確保に頭を抱えています。

シーマンズ 米国企業も数年前から、優秀なエンジニアの確保に少し苦労するようになっています。前政権の厳しい移民政策にコロナ禍が追い打ちをかけ、移民が減っているからです。間違いなく、米国には以前のように、多くの移民が必要です。

――AI導入をDXなどの企業戦略に組み込みに当たって、最大のカギとなるのは何でしょうか?

シーマンズ ポイントは3つあると思います。

 まず、「早期の導入」です。早く導入に踏み切ることです。

 次に、「小規模な導入から始める」ことです。いきなり全社レベルで導入するのではなく、最初は1グループや1チーム、1ビジネスユニットなど、社内の一部で試し、小規模な導入から始める。そうすることで、「何がうまくいって、何がうまくいかないか」を見極めます。そこから徐々に拡大していくことがポイントです。

 そして、3つ目が、「補完的資産に十分な投資を行う態勢を整える」ことです。繰り返しますが、それがDXへの投資であり、同時に、DXの難しいところでもあります。