大都市が失ったもの、中小規模の街に生まれた価値

 ではなぜ、渋谷やお台場周辺エリアの求心力は低減していったのだろうか。トレンドが発信される場所として人気だったこれらの地域と、下北沢にはどのような差異があるかを整理していく。

下北沢「サブカルの街大改造」が成功した理由、渋谷の再開発になかったのは?2013年3月に撮影した、東北沢4号踏切 Photo:Odakyu Electric Railway

 まず考えられるのが、再開発により「街が変わって、失われた景観」の大きさだ。お台場の象徴的存在だったヴィーナスフォート、大江戸温泉物語、STUDIO COAST(ageHa)は既に存在しない。渋谷においても、駅周辺のビル群の建て直し、道玄坂地区の再開発に伴うビル群の取り壊しで景観は完全に変わった。宮下公園周辺・桜丘地区の完全な商業施設化、大型ナイトクラブ「SOUND MUSEUM VISION」「Contact Tokyo」が2022年9月に閉店するなど、街に根差した文化は目まぐるしく推移している。

 対して、下北沢をはじめ、中野、高円寺、吉祥寺などは、多少景観は変わっても、各施設が抱えていた文化や伝統が色濃く残っている。言わば再開発でもたらされた「新しい空気」と昔ながらのノスタルジーが絶妙なバランスで共生できていることが、支持を集めている理由なのだ。

 いわゆるZ世代の消費行動の特徴とされる「所有よりも体験や共感を重視する」傾向も、下北沢の持つ「古風な文化をある程度残しつつ、新たな体験を提供する」といった特徴と合致しており、今改めて若者の街としてにぎわいつつあることが伺えるだろう。