「恐れ」に負けたくないから、香港にとどまる

 だが、今の香港で「抵抗」にはリスクが付きまとう。周監督はこの作品の版権、各国での配給に関する全ての権利をその海外在住の友人に任せ、一切のコピーを手元から消し去った。

僕は今も香港にいます。正直に言いますが、僕自身も逮捕される可能性は非常に高いと思っています。製作中やカンヌまでは不安でよく涙を流していました。でも、今は心の準備ができたので精神的な不安はもうありません。僕はカトリック教徒で、「恐れ」に負けたくないんです。もちろん、すでに香港を離れた人たちにはそれぞれ理由があるので責めるつもりはありませんが、僕は「恐れ」を理由に香港を離れることはできなかった。「恐れ」を抱えたまま海外に逃げても、心の中は自由になれないからです。「恐れ」に向き合うことで乗り越えたら、恐れがなくなった。僕はすごく自由になれたんです。

 きっかけは当時6歳だった息子の言葉だった。映画を捨てて香港を離れようかと思っていたときのことだった。息子がそれを嫌がり、「パパが撮った映画を香港政府が見たら、きっと良い政府になるよ」と言ったのだ。

子どもの言うことなんか信じてはダメだ、と思うかもしれませんが、彼の言葉はそのまま僕の心の言葉だったんです。僕も期待を捨てたりしたくなかった。

 だが、実際には2019年デモの前に準備を始め、出資者も出演者もすでにそろっていた作品から、半分の資金が撤収され、俳優も「あなたとは仕事できない」と断ってきた。今や香港の映画ビジネスは中国市場を無視しては語れない(https://diamond.jp/articles/-/306891)。業界の人たちの多くは中国資本と組むチャンスを失いたくないと考えている。さらには、カンヌでの公開をきっかけに、大学での映画関連の講師の仕事も全てなくなった。