「あれ? いま何しようとしてたんだっけ?」「ほら、あの人、名前なんていうんだっけ?」「昨日の晩ごはん、何食べんたんだっけ?」……若い頃は気にならなかったのに、いつの頃からか、もの忘れが激しくなってきた。「ちょっと忘れた」というレベルではなく、40代以降ともなれば「しょっちゅう忘れてしまう」「名前が出てこない」のが、もう当たり前。それもこれも「年をとったせいだ」と思うかもしれない。けれど、ちょっと待った! それは、まったくの勘違いかもしれない……。
そこで参考にしたいのが、認知症患者と向き合ってきた医師・松原英多氏の著書『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』(ダイヤモンド社)だ。
本書は、若い人はもちろん高齢者でも、「これならできそう」「続けられそう」と思えて、何歳からでも脳が若返る秘訣を明かした1冊。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、脳の衰えを感じている人が陥りがちな勘違いと長生きしても脳が老けない方法を解き明かす。

がんに比べて認知症を恐れる人が少ない?<br />「誰もが将来の認知症に備えるべき」<br />と91歳の医師が断言したワケPhoto: Adobe Stock

もの忘れから始まる認知症

【前回】からの続き 本書の本論に入る前に、まずは認知症について、きちんと知っておきましょう。

そもそも認知症とは、脳の機能(認知機能)が持続的に低下して、日常生活に支障をきたす状態を指します。ですから、実態を踏まえると「認知機能不全症」と呼ぶのが正しいと、私は思っています。

始めに起こるのは、たいていもの忘れ(記憶障害)です。数分前、数時間前の出来事を忘れてしまったり、約束事を忘れたり、よく知っている人やモノの名前が出てこなくなったりするのです。

もの忘れと認知症は何が違うのか?

誰でも年をとると、若い頃と比べて記憶力は低下しますし、顔は浮かんでいるのにその人の名前が出てこなかったり、「あれ、いま何しようとしてたんだっけ?」ということも出てきたりします。

そうした加齢によるもの忘れと、認知症によるもの忘れは、何が違うのか? それには、次の表のような違いがあります。

がんに比べて認知症を恐れる人が少ない?<br />「誰もが将来の認知症に備えるべき」<br />と91歳の医師が断言したワケ

もの忘れ以外の認知症の症状とは?

認知症には、もの忘れ(記憶障害)以外にも、次のような症状(中核症状)もあります。

日付や曜日がわからなくなる・慣れた道で迷う・家族がわからない(見当識障害)
仕事や運転のミスが増える・預貯金が下ろせない(理解力・判断力の障害)
調理の味付けを間違える・服の着方がわからなくなる(実行機能障害)
言葉が出てこない・目的に沿った行動が困難(言語障害)

認知症が進むと、「徘徊、暴言、暴力、幻覚、妄想、抑うつ、意欲の低下、不眠」といった行動・心理症状(BPSD)をともなうこともあります。これらは、本人がもともと持っている気質や環境、人間関係などの要因が複雑に絡み合って生じます。

がんに比べて認知症を恐れる人が少ない?<br />「誰もが将来の認知症に備えるべき」<br />と91歳の医師が断言したワケ

実は100種類以上もある認知症

また、認知症といっても、実は100種類以上あります。なかでも多いのは、次の4つです。

アルツハイマー型認知症……67.6%
脳血管性認知症……19.5%
レビー小体型認知症……4.3%
前頭側頭型認知症……1.0%
(その他の認知症……7.6%

「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」より

もっとも有名なのは、「アルツハイマー型認知症」でしょう。脳内に「アミロイドβ ベータ」(異常たんぱく質)がたまることが原因になると考えられています。主な症状は、「記憶力の低下」です。

「脳血管性認知症」は、脳を養うために張り巡らされている血管に起こる病変から生じます。主な症状は、「麻痺(まひ)とまだら認知症」(症状の現れ方に波があり、認知機能の障害が“まだら”に生じる)です。

「レビー小体型認知症」は、レビー小体というたんぱく質のかたまりが、脳内に沈着して起こります。主な症状は、「妄想や幻覚、手の震え」です。女性よりも男性に多く見られます。

「前頭側頭型認知症」は、大脳の前頭葉や側頭葉を中心に変性が起こります。主な症状は、「人格の変化、行動障害、失語症、運動障害」などです。
本書では、このうちアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症をメインにとり上げます)

なぜ、がんに比べて認知症を恐れる人が少ないのか?

人生100年時代となったいまは、誰しも“長生きリスク”を抱えています。その1つは老後の経済的なリスクですが、それに負けず劣らず深刻なのが認知症のリスクです。

その意味では、老若男女を問わず、誰もが将来の認知症に備えるべきですが、私の患者さんの反応からもわかるように、がんを恐れる人は多いのに、認知症を自分ごととして恐れる人は少ないです。

本書がきっかけとなり、1人でも多くの方が認知症への理解を深め、その予防の重要性を自分ごととして理解し、実践してくださるとしたら、著者として嬉しい限りです。

【次回へ続く】 ※本稿は、『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』より一部を抜粋・編集したものです。本書には、脳が若返るメソッドがたくさん掲載されています。ぜひチェックしてみてください!