「平均寿命より短くてもよい」と思う人は実際に寿命が短い!?

 1990年、宮城県内の40歳から64歳までの約4万人を対象に寿命について「長いほどよい」「平均寿命ぐらいが良い」「平均寿命より短くてもよい」という三つの答えを選んでもらった。それから25年後にあたる2015年までの生存状況を調査したところ、興味深い事実が浮かび上がったのである。

 なんと「平均寿命より短くてもよい」と答えた方は、実際に寿命が短かったのだ。死亡率で言うと、短くてもいいと答えた人は、長いほどいいと答えた人に比べて1.12倍にもなっていて、しかも、がんでの死亡は1.14倍、自殺での死亡では2.15倍という結果になった。

「実はこのように希望する寿命と実際の寿命についての調査というのは海外にも前例がありますが、それは高齢者を対象としているため、調査を開始した段階ですでに何かの病気にかかっていたり、生きる希望を失いかけていたりする。しかし、今回の調査は対象が40~64歳という、いわゆる働き盛り世代を追跡しています。これは世界でも初めてのことです」(辻教授)

 40〜50代の皆さんのまわりにも、「健康のことを気にしながら長生きするよりも、好きなもの食って、タバコもスパスパ吸って楽しく短く生きた方がいい」とうそぶくような人が一人はいるのではないか。そのような“心”で生きている人は20年もすると、本当に寿命が短くなってしまうということが、この調査で明らかになったというわけなのだ。

 ただ、一方でこの調査結果を受けて、「太く短く生きてやる」と心に誓って生きているような人は、こんな風に思うのではないか。

 そもそも不規則な生活を送っていたり、偏った食生活や喫煙をやめる気もない人というのは、「どうせ自分は長く生きることができないだろ」とうっすらと考えている。つまり、「不健康な生活習慣」が先にあって、そういうライフスタイルを続けている人が「寿命が短くていい」という考えになったという順番であって、別に「心」が健康寿命に影響をしているわけではないのでは――。

 確かに、今回の調査結果からも、希望寿命と死亡リスクの関連のうち30.4%が生活習慣で説明できることがわかっているという。それを細かく分けていくと、喫煙が両者の関連の17.4%を媒介し、BMIが4.4%、歩行時間が4.1%、飲酒が3.8%、朝食欠食が3.8%となっている。

 だが、辻教授は「それは裏を返せば7割は生活習慣では説明ができないということ」だとして、まずは「心の不健康」があって、それが健康寿命に影響を及ぼしている可能性が強いと説明する。

「例えば、今は健康にまったく不安のない人たちに対しても10年、20年先を見据えて、血圧の管理をしっかりしましょうなどとよく呼びかけますが、聞き入れてくれる人というのはだいたい、将来に夢や目標があるというような人たちです。逆に聞いてくれない人というのは、何も問題ないんだから今を楽しく生きればいいというような考えの人です。やはり後者のような人たちが、将来的にはがんや心筋梗塞になっていることが多いのです」(辻教授)

 実際、1994年に宮城県内で40〜79歳の5万4996人に対して「あなたは生きがいをもって生活をしてしますか?」と質問をして生存率を9年間追跡調査をしたところ、「生きがいがある」と回答した人たちの方が「ない」と回答した人よりも顕著に長生きだったという。