貯蓄好き日本の家計が被った機会損失、過去20年間で1222兆円という現実日本の家計は豊かになる可能性を放棄してきたとしか言いようがない Photo:Reuters/AFLO

 前回のコラムでは、現在の2%台のインフレ率と預貯金のゼロ金利が続けば、日本の家計が保有する1000兆円余りの預貯金に年間20兆円余りの「インフレタックス」が生じること、さらにそのコストは預貯金の大半を保有する高齢者家計が負担するので、結果的に政府債務の実質価値減少を通じて世代間格差の縮小の効果があることを述べた(「それでも日本にインフレが必要な訳」2022年7月20日)。

 今回は過去20年間に日本の家計がその預貯金偏重の資産構成のゆえに失った利益総額(機会損失)を推計してみた。その結果は20年間でなんと1222兆円と途方もない金額になる。今の現役世代、将来世代はその資産形成において、預貯金に偏した旧世代の轍を踏まないことが重要だ。

日本の家計金融資産が過去20年間で2.29倍になっていた可能性

 図表1は日本の家計の金融資産・負債総額の1990年からの推移である。金融資産総額は1990年度末の約1017兆円から、2021年12月末の2023兆円に増えているが、現金・預金比率が金融資産全体の50~55%を一貫して占めている。

 リスク性資産としての株式と投資信託などの比率は1990年度の20.3%がピークで、その後はおおむね10~15%の範囲だが、2008年度末の9.2%をボトムに最近は15%前後に上がってきている。これは期待を抱かせる変化だが、買い増しによるリスク性資産の増加よりも株価上昇の影響の方が大きいだろう。また負債総額は300兆円から400兆円の間で推移しており、あまり大きな変化はない。

 本稿の推計の想定は次の通り。まず20年前の2001年度末(2002年3月末)の日本家計の現金・預金が金融資産に占める比率が、現実の54%ではなく20%ポイント低い34%とし、逆に株式+投資信託の比率は現実の8.7%(実額122.9兆円)ではなく、28.7%(実額406.8兆円、実績比283.9兆円)だったと想定しよう。これは米国家計ほどリスク性資産(株式+投資信託比率51%)には傾斜してはいないが、現在のユーロ圏諸国の平均(現金・預金比率34.3%、株式+投資信託比率27.8%)に近い比率である(補注1)。

 また2001年度末(2002年3月末)から2021年12月末までの現金・預金の増加額は326.3兆円であるが、このうち半分(163.1兆円)が株式+投資信託に月次の定額積立投資で投資に回されたと想定しよう。現金・預金の年率利回りはゼロ%、株式+投資信託の年率利回りは7.17%と想定する。

 この7.17%という利回りは架空の想定ではなく、同期間に米国株価指数S&P500と日本株価指数TOPIXに連動する投資信託に各50%投資した場合の円ベースの実際の年率利回りである(配当再投資ベース、運用手数料・税引き前)。

 この結果、2001年度の初期投資283.9兆円は2021年12月には時価で1114.6兆円(a)、また約20年間にわたって定額積立された累計163.1兆円は554兆円(b)になる(補注2)。投資額に対する実額増分はなんと1221.6兆円にもなる。すなわち、もし想定した資産構成であったならば、2021年12月末の日本の家計金融資産は今ある2023兆円ではなく、3245兆円になったことを意味する。これは2001年度末の金融資産総額の2.29倍だ。