▼北朝鮮に対する核兵器またはその他の大量破壊兵器による攻撃が強行されたり、差し迫っていると判断される場合
▼国家指導部と国家核戦力指揮機構に対する核および非核攻撃が強行されたり、迫ったと判断される場合
▼国家の重要戦略的対象に対する致命的な軍事的攻撃が強行されたり、差し迫ったと判断される場合
▼有事に戦争主導権を掌握するための作戦上必要な場合
▼国家の存立と人民の生命の安全に破局的な危機を招く事態が発生した場合

 しかし、指導部などに対する「核・非核攻撃が切迫している」と言っても、北朝鮮は偵察衛星を一つも持たない国であり、攻撃が切迫している兆候を事実として感知するすべはない。朝鮮日報は、「金正恩氏が『不安を感じた』とか、『被害妄想』だけで核を使える根拠に定めたことと何ら違いはない」と懸念を表明している。

 また、「通常兵器による攻撃を受けた場合も、それが指導部を狙ったものであれば『先制攻撃』できる」という規定がある。

 金正恩氏を狙った特殊戦司令部によるいわゆる「斬首作戦」、あるいは挑発の“原点”を攻撃する韓国の3軸作戦(北朝鮮のミサイルを探知した場合には先制攻撃で無力化する「キル・チェーン」、ミサイル攻撃があった場合にはミサイルで迎撃する「韓国型ミサイル防衛体制」、攻撃があれば指導部を無効化する「大量反撃報復」の先制攻撃)などが該当するであろう。

米韓の対応が変わらなければ
さらなる挑発の可能性も

 金正恩氏は、最高人民会議に向けて行った演説で、「われわれの核を巡ってこれ以上駆け引きできないように不退の線を引いておいたことに重大な意義がある」「核保有国としての地位は不可逆的なものになった」と核へのこだわりを強調している。

 トランプ政権時の2018~19年、2度にわたる米朝首脳会談で「寧辺(ヨンビョン)核施設放棄」と「対北朝鮮制裁緩和」の交渉が行われたが、こうした形の交渉はこれ以上行わないという意思表示でもある。

 今回の北朝鮮の「核武力政策法」は、北朝鮮の意図する方向に交渉を変革する意図が見えるが、米韓の対応が変わらない場合には、北朝鮮は「核武力政策法」が単なる言葉にすぎないものではないことを見せつけるため、さらなる挑発に出てくる可能性がある。

 当面考えられるのは7回目の核実験であるが、それが行われた場合には国連制裁の強化(中ロの拒否権でブロックされる可能性は高い)、日米韓と西側諸国による独自の制裁の推進、拡大抑止の強化などにより、朝鮮半島の緊張は一気に高まる可能性がある。