一方、日銀が市中にお金を供給しようとしても、金利がゼロまで低下してしまうと、市中の側に資金需要がない場合、銀行が日銀に保有する当座預金にお金が滞留してしまう問題があった。いわゆる「ブタ積み」である。これを確実に解消するためには、財政の拡大を通じた資金需要の生成が必要で、2本目の矢である「積極財政」は単なる景気対策だけではなく、金融緩和政策の補完要素として必要なものであった。

 政策金利がゼロまで低下したら、金融緩和だけではお金の供給量を拡大してインフレ率を上げることができない一方、財政の後押しがあれば金融緩和の効果が発揮される――。それらのことは、おととしから今年にかけての米国の経緯を見るとよく分かる。

 新型コロナウイルス対策で金融緩和に転じた米連邦準備制度理事会(FRB)だったが、インフレ率は大きくは上がらず、FRB自身が何らかの構造的要因で低インフレが続きそうだと勘違いした。しかし、バイデン政権が大規模な財政拡大を行うに至って今度は「政策が効き過ぎて」賃金上昇を伴う(単に資源価格高騰だけではない)インフレを招来し、目下その対策にかかりきりの状況にある。

 読者は、インフレには財政が効く場合があることと、FRBといえどもそう賢いものではないことの2点を教訓として理解・記憶すると有益だろう。

「2本目の矢」財政出動は
逆方向に撃たれた

 そして日本の場合、この2本目の矢が政策目的を裏切ることになる。旧民主党政権時代に決まっていた消費税率の引き上げが2014年に行われ、すなわち財政に緊縮方向への変化が生じて、アベノミクス全体が頓挫した。2本目の矢は、不十分なだけでなく逆向きに放たれたのだ。

 全くの余談だが、「社会保障目的」などの言辞を弄して消費税率の引き上げをまとめた自民党の伊吹文明氏の政治的調整能力は驚嘆に値するものだった。当時の二大政党の党首たち(民主党・野田佳彦氏、自民党・谷垣禎一氏)が元々財政再建バイアスの持ち主だったとはいえだ。

 まるで野生のブタやタヌキに自転車を漕がせるくらいの「魔術」を使って、民主党政権の崩壊と、後の2度にわたる消費税率の引き上げを予約した。かつての大蔵省にはすごい人がいたのだと思わずにはいられない(注:伊吹氏は旧大蔵省のご出身だ)。