「2%」のインフレ目標が長きにわたって達成できなかった点において、経済政策パッケージとしてのアベノミクスは「成功したとは言えない」。しかし、経済的弱者層における雇用の改善や株価などの資産価格の上昇、さらに2%に満たないとはいえ「0%以上」をクリアした物価の動きなどはアベノミクスの成果だ。これらを振り返ると、アベノミクスの特に金融緩和は「やらないよりは、やった方がはるかによかった」と言える。

「2%の目標達成に失敗したからアベノミクスは失敗であり、すっかり改める必要がある」といった雑な議論に、今後の政府(首相は岸田文雄氏でなくてもいい)が傾かないことを切に望む。

金融緩和策にかかった
「過度な期待と負担」の弊害

 さて、黒田東彦・日銀総裁の存在に象徴されるアベノミクスの金融緩和政策は必要であったし、大筋では適切だった。

 しかし、金融政策に過度な期待と負担がかかったことの弊害も見落とせない。例えば、金融緩和の手段としての日銀の上場投資信託(ETF)の購入や、長期金利まで操作対象とするイールドカーブ・コントロール(YCC)政策は、いずれも「やり過ぎ」であったと筆者は考えている(どちらも、どうやって抜けるつもりなのだろうか?)。

 アベノミクスにあって、金融政策に過度な負担がかかったことについては、二つの議論が影響したように思う。

 一つには、「金融(緩和)政策だけでインフレを達成できるのか?」という問いがあった。金融緩和政策を支持する論者たちは「できる」と言いたがる傾向があったし、反対の論者達は「財政拡大は金融政策ではない。金融政策だけでインフレにできるかどうかは怪しい」と論じた。

 この問題に対しては、「金利ゼロまで来ると財政政策が有効だ」「金融政策でも財政政策でも、名前はどうでもいいから、目的に叶う政策を行うべきだ」と素朴に理解するのが実際的だったと思う。しかし、議論は非生産的にこじれがちだった。

 その背景には、アベノミクスが「期待(=予想)に働きかける政策」であり、特に金融政策の当事者が政策の達成に対してネガティブな情報発信ができない状況があった。