金融政策の担当者は、国民に将来インフレになると予想してもらい、その予想を基に行動してもらう必要がある。そのため、「政策でインフレにできるし、今後インフレになるはずだ」という情報発信を続ける必要があった。「金融政策だけではインフレにできない」とは言えないのだ。

「期待に働きかける政策」で
自縄自縛に陥った日銀

 振り返ると、そして今後を考えると、日銀にはこの点を克服してほしかった。「金融政策でできることはあらかたやっている。ここで肝心なのは財政政策の後押しなのだから、政府・財務省にはしっかり後押ししてもらわないと困る」「今、消費税率を引き上げるなど、とんでもない」等の情報発信をすべきだった。

 経済政策について適切な理解を全く持っていないように見える現在の財務省に忖度する必要など1ミリもなかった。彼らと正論で勝負しなかった点において、日銀は(黒田総裁だけでなく組織全体が)「ひ弱」だった。

 しかも、日銀は自らの政策の枠内にこもって「期待に働きかける」情報発信を行う必要があったので、自縄自縛に陥った。「インフレには、するし、できる」としか発信できなくなった。「必要があれば、僕はいつでも結婚に向けて動き出すよ」と言い続けなければならない、結婚詐欺師のような状況に日銀ははまり込んだ。

 黒田総裁の長年の定番とも言えるせりふ「必要があれば躊躇(ちゅうちょ)なく追加の金融緩和を実施する」がその象徴だ。目標(2%!)は未達なのだから「必要」は常にあったのだった。

 そして言うだけでなく、本当に何かやるのだと思わせるためには、「芸」を見せる必要があった。その結果が、ETF購入やYCC政策ではなかったか。

 もちろん、日銀に孤独な演技を強いたのは、政治の落ち度だ。時の政権は、財務省を抑えて積極的な財政政策を維持させる必要があった。もちろん、政策目的達成前の段階での消費税率引き上げを阻止すべきでもあった。