後にわかったことですが、当時、このフォルステライトの合成に成功したのは、私以外には、アメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)だけでした。それだけに、私の開発したフォルステライトは大いに注目を集めました。

 この高周波特性に優れたフォルステライトを材料として、最初に製品開発に取り組んだのが、松下電器産業(現パナソニック)グループの中でブラウン管の製造などを担当していた松下電子工業(当時)から受注した、「U字ケルシマ」という絶縁部品でした。

 ちょうどそのころは、日本の家庭にブラウン管式のテレビが普及し始めた時期で、その電子銃の絶縁部品であるU字ケルシマの材料として、私が開発したフォルステライトが打ってつけだったのです。

 このU字ケルシマの開発で一番苦労したのは、原料であるフォルステライト粉末の成形でした。さらさらの粉末では、形をつくることはできません。うどんやそばをつくるのと同じように、粘りけのある「つなぎ」が必要になるのです。従来は、粘土をつなぎとして使っていましたが、それではどうしても不純物が混ざってしまいます。来る日も来る日も、私はこの「つなぎの問題」をどうクリアするか、考えあぐねていました。

 そんなある日、思いもかけないことが起きたのです。

 その日、私は懸案の「つなぎの問題」を考えながら、実験室を歩いていたところ、何かに蹴躓いて転びそうになりました。思わず足元を見ると、実験で使うパラフィンワックスが靴にべっとりとついているのです。

「誰だ! こんなところにワックスを置いたのは!」と叫びそうになった、まさにその瞬間です。

「これだ!」

 私はひらめきました。