早速、手製の鍋にファインセラミックス原料と、そのパラフィンワックスを入れて、熱を加えながらかき混ぜて原料をつくり、型に入れて成形してみたところ、見事に形をつくることに成功しました。さらには、それを高温の炉に入れて焼くと、つなぎのパラフィンワックスはすべて燃え尽きてしまうので、完成品のU字ケルシマには不純物がまったく残っていません。

 あれだけ悩み抜いた懸案が、一気に解決していったのです。

 今思い返してみても「神の啓示」としかたとえようのない瞬間でした。

 もちろん、実際に解決策がひらめいたのは私自身です。しかし、それは一生懸命に仕事に打ち込み、苦しみ抜いている私の姿を見た神様が憐れみ、知恵を授けてくれた、そう表現するしかできないように思うのです。

 私は、そんな経験をいく度も積んできたために、その後、ことあるごとに社員をつかまえては、「神様が手を差し伸べたくなるほどに、一途に仕事に打ち込め。そうすれば、どんな困難な局面でも、きっと神の助けがあり、成功することができる」と、よく話したものです。

 私が開発したU字ケルシマはその後、テレビのブラウン管の製造に欠かせない部品として、松下電子工業から大量の発注を受け、傾きかけた会社を救う起死回生の商品として、全社の期待を一身に集めることになりました。

 このときの技術、実績が、その後の京セラ発展の礎となったと言っても過言ではありません。また、この「最初の成功体験」によって、私は苦難の中にあっても、懸命に働くことが、素晴らしい運命をもたらすということを、幸いなことに実感することができました。

「あいつは、かわいそうだ」――。

 人間というのは、周囲からこう言われるくらい不幸な境遇に、一度は置かれたほうがいいのかもしれません。