現在のビジネス構造を固定して考えるなら、「企業が生産を海外に移した今日では円安のメリットは乏しい」と現状について評することはできよう。ただ、海外に投資したビジネスからの利益配分は円安で拡大しており、日本企業の利益は総体として増えている。

「企業は、現在利益がある方が投資するか、ない方が投資するか?」。この質問への答えも、「利益がある方が投資する」だろうし、その原因は円安であって、円高になると損なわれる。

 国民は、もうかっている企業の株主や社員ばかりではないから、経済的に困っている人がいるのは事実だ。しかし、政策の関与としては、「困っている人」から順にサポートすればいい。

 為替レートを円高にしようとすることは、経済政策として適切ではない。

1ドル=150円時代の働き方
外資系企業が賃金上昇の鍵に?

 特に職業選択を考えている若い人に向けて、働き方の選択について述べておく。

 今は円安なのだから、外国で働くこと、あるいは外資系の会社で働くことが圧倒的に有利なはずだ。日本企業の就職上のブランド価値にはこだわらない方がいい。

 外資系の会社も日本で人を雇う以上、日本の賃金相場を見て雇用条件を考えるはずだ。その際、本社や日本以外の国で人を雇うよりも、日本で人を雇う条件は圧倒的に有利だ。

 例えば、外資系の会社がこぞって日本の優秀な大学生(別に東京大学でなくてもいいが、例えば東大の成績上位50%以上。たぶん、下半分は採らなくていい)をまとめて本社並みの賃金(日本の初任給の2~3倍になるだろう)でごっそりさらっていくような事態が生じると想像してみよう。この採用は、外資系企業自身にとって合理的だろう。日本の優秀人材の国際価格は目下非常に割安のはずだ。

 こうしたことが起こって初めて、日本の企業も若手社員の賃金を引き上げようとするだろうし、ジョブ型の雇用が広がり、人材の流動性が高まるだろう。ただし、同時に個人単位での経済格差は大いに開くはずだ。

 日本の賃金上昇の突破口は外資系企業にあるのかもしれない。

 もちろん、外資系企業で働くことは楽しいことばかりではないのだが、「円安時代は外資が有利だ」ということは、会社を選択する側が覚えていて損はない。