新刊『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO) 2021-2022~』(扶桑社)が発売となった佐久間宣行氏。ラジオファンにはラジオパーソナリティとしてアツい人気を誇る佐久間氏だが、サラリーマンから独立し、「鎌倉殿の13人」のトークスペシャル番組で初MCを務めるなど、ビジネスパーソンとしての仕事の顔も、今、大きな注目を集めている。本記事では、佐久間氏が自らの仕事術を綴ったビジネス書『佐久間宣行のずるい仕事術』から佐久間氏が提唱する仕事術の一部をお届けしているが、今回は特別に本書から、佐久間氏の上司であったテレビ東京、エグゼクティブプロデューサー伊藤隆行氏のインタビューをお届けする。

エグゼクティブプロデューサーが語る<br />「テレビ東京」の強さと「マネジメント」のコツ伊藤隆行(いとう・たかゆき)
1972年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。テレビ東京 エグゼクティブプロデューサー。編成局を経て制作局に異動し、バラエティを中心に数多くの番組を手がける。主な番組に「モヤモヤさまぁ~ず2」「池の水ぜんぶ抜く大作戦」「やりすぎ都市伝説」など。著書に『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』(集英社新書)がある。

好きなようにやらせる

―――伊藤さんははじめ、佐久間さんを指導する先輩の立場でした。佐久間さんは新人のころから目立っていましたか?

伊藤隆行さん(以下、伊藤):ごくふつうの新人でしたよ。存在感を見せるようになったのは、佐久間が入社3年目に立ち上げた「ナミダメ」のとき。「変な企画を考えるおもしろいヤツだなあ」と思いましたね。同時期に僕も「人妻温泉」というヘンな企画をスタートさせていて、結果的に佐久間の「ナミダメ」のほうが先に終わりましたけど(笑)、この2本の企画で「僕たちがテレビ東京の深夜でおもしろいことを仕掛けていくんだ」ってマインドセットされた気がします。佐久間がどう思ってるかはわからないけど。

―――「上司」として佐久間さんをどのようにマネジメントされていたのでしょうか。

伊藤:マネジメントは……してません!(笑)佐久間はやりたいことが明確で、逆に言えばやりたくないことはとことんできない性格。自分の「おもしろい」に素直だし、いい意味でワガママで頑固です。でも、演出家としてはそれで全然かまわないんですよ。だから上司としてはひたすら放っておいて、好きなようにやらせていました。ただし、佐久間の企画に対して社内から向かい風が吹きそうなときは、本人に気づかれないように壁になるアイデアを守るホントにそれだけでしたね。

上司は「壁」になればいい

―――見守って、壁になってこられたんですね。

伊藤:お笑い番組をやっていたもうひとりのプロデューサーとは、「佐久間はバラエティモンスターだから、おれたちは猛獣使いになればいいよね」って話していました。たとえば、佐久間がつくる番組はファンや演者の熱量が高い一方で、必ずしも高視聴率ではないんです。だからじつは、何度も終わりそうになっていました。そんな中で「壁」になっていた僕らや売上をつくってくれたDVD制作のセクション、とにかく周りの人にはもっと感謝してほしいです(笑)。

数字がすべてではない

―――マネジャーとして、会社の評価指針である「視聴率」を重視させなかった理由は?

伊藤:あいつは「自分がおもしろいと思うもの」しかつくれないから。万人受けはしないけどものすごいこだわりがあるし、実際おもしろいし。「老若男女に向けたゴールデンタイムの番組をつくれ」なんて、向いてないことをさせるのはやっぱり違うなと。

なかった土壌を開拓する

―――佐久間さんご自身はどのようなチームをつくられていましたか?

伊藤:これは初めて言うんですが、「佐久間はすごいな」とあらためて思ったことがあって。「ゴッドタン」の1クール目の打ち上げの席で、おぎやはぎと劇団ひとり、他のディレクター陣がみんな佐久間への信頼を口にしてたんです。同じチームで前身の番組「大人のコンソメ」をやっていたときと比べても、しっかり関係を育めていた。そこは感心しましたね。もともとお笑い番組をつくる土壌がなかったテレビ東京で、現場のトップである佐久間が、やりたいことをやって、演者含めチーム全員で番組をつくり上げ、その中で信頼を得てきたんだな、コイツすごいなと。

「個」が熱を生む

―――具体的に、佐久間さんはどのようなマネジメントスタイルなのでしょう。

伊藤:小さいチームづくりを徹底しているように見えます。決して大所帯を構えない。番組の放つ個性ってチームの人数じゃなくて「個」の意志なんですよ。「個」の意志が、画面に熱を持たせるんです。佐久間はそれをわかっていて、自分に足りないところを補完する少数のスタッフとしっかり関係を育てて、一緒に成長してきた印象ですね。

―――佐久間さんは会社の後輩たちとは、どのような関係を築いていましたか?

伊藤:後輩は大事にしてましたよ。僕に対しても「これ、後輩に聞いたんですけど~」ってよく話してましたし。仕事だけじゃなくて個人的な話を相談されるくらいの関係を築いていたみたいです。いい先輩だったんでしょうね。

「空気」の読めなさが「おもしろい」をつくる

―――伊藤さんからは、部下である佐久間さんへの強い愛情や尊敬が感じられます。

伊藤:いや、あいつはホントに「ズルい」んですよ。天才的にズルい。あいつはだれとも揉めないし、一切戦わないけど、周りの人はその佐久間のアイデアのために怒られたり謝ったりしてるんだから(笑)。つくりたいものだけに邁進して、どうでもいいことは見ない力が相当強いんですよね。天然なのかな。ある種の空気の読めなさが、あの「おもしろい」をつくってるんだと思います。

『佐久間宣行のずるい仕事術』より)