サンプルとしての自分に立ち返ると、筆者は10年、20年、30年と運用の世界を見続けているうちに、「経済予測で運用を改善する」ことは無理なのだと、実感を強化しながら認識するようになった。早い話が、その方針で大規模かつ長期的にうまくいっているプレーヤーが見当たらないのだ。

 なお、個人として世界経済を論じることから運用方針を考えるばかばかしさを痛感した最初の経験は、勤めていた運用機関の上司(部長)が運用方針の会議で、ベルリンの壁崩壊についてとうとうと述べるのを聞いていた時だった。「経済予測が資産運用にとって重要だという考えは、単なる自己満足の補足材料なのではないか」と思った。そして、その思いは全く間違っていなかった。

経済予測自体が
実は「難事」である

 経済予測で運用方針を決めることがうまくいかない大きな理由の一つは、経済予測自体が難しいからだ。

 運用業界には、「予測は難しい。特に、将来のことに関しては」という、かつてのニューヨーク・ヤンキースの名捕手ヨギ・ベラ(味わい深い名言を吐くタイプの人物だったらしい)によるものとされる言葉が伝えられている。人を喰った印象を与える言葉だが、その通り、経済に関する予測は大変難しい。

 世間に多くの職業エコノミストがいて、さらに経済学者がいるにもかかわらず、経済予測はなかなか当たらないし、特に肝心な局面で当たらない。

 例えば、昨今のインフレに関して、少なくとも2021年の初頭くらいの段階で米連邦準備制度理事会(FRB)は「物価上昇は、一時的に2%をはっきり超えるかもしれないが一時的なものだ」と考えていた。おそらくは、世界のエネルギー・資源の価格に対する需給の読みを誤ったことに加えて、コロナ対策の財政支出の影響を過小評価したのだろう、などと事後的に評することはできる。ただ、そうだとしても、こと米国の景気や物価を調査する上では最高レベルの人材と情報(近い将来の金融政策まで予測できる「インサイダー」だ)を持ち合わせているはずのFRBでさえ、一番肝心の局面で物価予測が当たらなかった。

 専門家の予測力の貧しさに関しては、世界的な金融危機についてエリザベス女王にご進講した超一流の経済学者たちが、「ところで、皆さんたちはこのようなことになると、誰も予測できなかったのですか」と問われて絶句したというエピソードなども有名だ。

 より小さな研究所、金融機関・運用会社の調査部門、さらには市井の経済研究家が卑下する必要は少しもないが、彼らも、資産運用に有効なレベルで経済予測を行うことには成功していないように見える。

 率直に認めようではないか。経済予測は難しいのだ。