「他人の予測を把握する」ことも
ほぼ不可能なくらい難しい

 もう一点、経済予測から市場予測を構成するアプローチの有用性を損なうファクターを指摘しておこう。

 それは、「他のプレイヤー(市場参加者)の予想」を把握することが難しいからだ。

 仮に、それなりに正しい経済予測ができて、経済変数とマーケット変数との間の相関関係についてそこそこに有効と思える推定ができたとしよう。

 次の問題は、市場に参加する他のプレイヤーがどのような予測を持っているかだ。

 運用者にとって理想的なのは、他のプレイヤーが当面「誤った予測」を持っていて、しばらくした後に「間違いに気付いて、後追いしてくれる」状況だ。しかし、普通、世の中はなかなかそこまで幸運にはできていない。

 そこで、自分の予想の価値を把握するために、他の市場参加者の予想をぜひ知りたいと思うのだが、これがほとんど不可能なくらい難しい。

 いわゆるコンセンサス調査のようなデータは世間にある。市場参加者はこれを見て自分の予想の世間的な位置を知ろうとするのだが、それは、他の参加者もやっていることだ。そして、それで他の参加者の本音の予測が分かるわけではない。

 かくして、多くの困難を乗り越えて、正しい経済予想と経済変数とマーケット変数の関係の推定とにたまたまたどり着けたとしても、自分の予想の相対的な位置や価値を正しく知ることが難しい。そして、そもそも元の予想が合っているのかどうかに自信がないのだ。脳みそが冷静でさえあれば、市場参加者は「経済予測から運用戦略を作るのは無理だ」と気が付くことになる。