ベトナム 2013年2月1日

ベトナムでのビジネスで常につきまとう”ワイロ”
「払うべきか、払わざるべきか」、良心との闘い3番勝負

どこまでが賄賂なのか、線引きは難しい

 D氏の例は比較的分かりやすい「賄賂の催促」だったが、賄賂なのかどうか、区別が付かない場合も多い。

 とあるベトナムの出版社から「広告を掲載してもらえないか」と打診されたことがある。弊社は、広告代理店業をしており、自社が発行している媒体に広告を頂くのが仕事。他社媒体に広告を載せることは、原則としてない。その本の実物を見せてもらったところ、ベトナム語のみで書かれているうえ、完成度自体もかなり低く、例え無料でも広告を載せるのはためらわれるレベルだった。お断りしようと思っていたところに、ある事情通の方から助言を頂いた。

 「あの会社のエライさんは、いろんな方面に顔が利く有力者で、広告代はその人のポケットに収まるんだ。あそこからの広告掲載は断らない方がいいよ」

とのこと。広告代の支払い先はその「有力者」個人ではなく出版社で、ちゃんと領収書も出るという。かなり怪しいなあと思ったが、広告を掲載することにした。幸い、その出版社から継続して広告掲載の依頼が来ることはなかった。その後、似たような話を他の人からも何度か聞いたことがある。果たしてあれは「賄賂」だったのだろうか?

 これら民間企業よりも、賄賂に気をつかうのはやはり公的機関を相手にする場合だ。

 ある行政機関から、弊社に「立ち入り検査」に行くという連絡を受け取った際のこと。法律関係の顧問をしている会社に相談すると、「中安さんが賄賂をお嫌いなのはよく存じ上げていますが、コーヒー代は必ず用意しておいてください」と助言を受けた。

 それでも、封筒に現金を入れて渡すというのには、どうしても抵抗があった私は、最初、来られた役人さんたちと一緒に食事に行き、ご馳走をしようと考えた。事前に予定を尋ねると「残念ながら都合が悪い」とのこと。そこで広告主である高級レストランで食事券を購入し、それを渡した。やって来た人たちは封筒の中を確かめると、かなり渋い顔をしていたが、一通り書類などを確認した後は、特に揉めることなくお引き取り下さった。

 これも厳密に言うと「賄賂を払った」ことになるのかもしれない。しかし、取引先の人を食事に接待して人間関係を深める、というのはよくある話。その延長線上だと考えれば、「許容範囲」と言えるのではないだろうか。

 私が賄賂を払いたくないのには、いろんな理由がある。賄賂を払うくらいなら社員のボーナスに回したい、不正なことはしたくない、一回払うとその後もずっと要求され続ける、などなど。

 しかし、いちばん大きな理由は「ベトナムとは末永く付き合っていきたいから」。確かに賄賂を払えば、手続きにかかる時間が短くなるなど、見返りがあるのは私も知っている。しかし私は「ジャパンマネーにものを言わせて、金で解決する」というのでは、長期的なパートナーシップが築きにくいような気がしてしまう。だから、今後も「賄賂は払わないし、受け取らない」という方針を守り続けていきたいと思っている。

開発が進むホーチミン市の情景・その2。市内中心部より郊外をのぞむ。今までは1区・3区と呼ばれる中心部の開発が進められていたが、今はその周辺部の開発が急速に進んでいる【撮影/中安昭人】

(文・撮影/中安昭人)

【お詫びと訂正】2012年12月28日に掲載した「ベトナムでは1年に月給が13カ月分支給され、大人だってお年玉がもらえる!」の原稿の中で、「『テト』と呼ばれるベトナム正月の前には、会社は従業員に対して、2カ月分の給料を払わなければならない、という法律がベトナムにはある」とありましたが、法律には規定がなく、「慣習」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。

筆者紹介:中安昭人(なかやす・あきひと)
1964年大阪生まれ。日本での約15年の編集者生活を経てベトナムの大手日系旅行会社・エーペックスベトナムが発行する「ベトナムスケッチ」(現地の日本語フリーペーパー)の編集長として招かれ、2002年7月にベトナムへ移住。その後独立し、出版および広告業を行なう「オリザベトナム」を設立。現在は同社のオーナー社長。社員数は約40人で、「ベトナムスケッチ」(月刊)以外に、「アットサイゴン」(タブロイド紙・隔週刊)、「ヘリテイジジャパン」(ベトナム航空の機内誌・季刊)などを発行。2000年に結婚したベトナム人妻との間に7歳になる娘が1人おり、ベトナム移住以来、ホーチミン市の下町の路地裏にある妻の実家に居候中。

 


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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