まとめ動画広告、クレジットのスキップ機能…
タイパ重視のZ世代にも寄り添う

 先月、ファスト動画を公開して逮捕された男女ふたりに5億円の賠償金が命じられる判決が下りました。ファスト映画とは2時間の映画を10分間にダイジェストした動画で、そもそも著作権法上違法です。一方で賠償金がこれだけ巨額になった背景には、非常に多くのネットユーザーがそのファスト映画を視聴していたことがありました。

 実はZ世代を中心にタイパ(タイムパフォーマンス)、つまり時間に対する費用対効果を非常に気にする人の数が増えていて、彼らは2時間の映画ですら視聴する時間がもったいないと思っているのです。

「じゃあ、見なければいいじゃないか」とも思うのですが、見なければ見ないで友人と話題が合わせられない。

 仕方なく見ていた2時間映画が10分で見られるなら、それは便利ではないかというのがZ世代のニーズです。

 それでネットフリックスに対して思うのは、「このタイミングであらすじを10分ぐらいでまとめてしまうのか?」という点です。

 ドラマのあらすじなんだからいいじゃないかと思うかもしれませんが、監督やプロデューサーをはじめ、映像の関係者にはこのような考え方はタブーです。なぜなら完成した2時間ないしは1シーズン全体が自分の作品だと考えているからです。

 実はビジネスで考えれば映画会社がファスト映画を作った方が儲かります。思考実験していただければわかりますが、シネコンで新作映画とは別に新作映画の公式ファスト映画を1000円で公開するようにしたらどうなるでしょう? 意外に見る人がたくさん出てくるはずです。

「そんな10分の映画に1000円払うんだったら、1500円かけて本編120分を見たほうがコスパはいいよ」と思った人はもうおじさん、おばさん世代です。

 コスパではなくタイパを考えたら、10分1000円のほうが120分1200円よりも得だと考えるのがZ世代なのです。しかも10分1000円ならば席がガラガラでも120分1200円の映画よりも、もうかります。

 ニーズがあっても業界の巨匠たちの大人の事情で実施できないのが公式ファスト映画なのですが、それを気にせずにこの微妙なタイミングで公開してしまうのがネットフリックスの面白いところです。

 タイパを気にする視聴者に寄り添うという意味で、ネットフリックスがもう一つ業界タブーを無視している点が番組クレジットのスキップです。

 ネットフリックスでは番組が終了するとデフォルトでクレジットをスキップする表示が出ます。その間に操作をしないとクレジットは強制終了して連続ドラマなら次の回、映画だったら次のお勧め映画に画面が移ってしまいます。

 このクレジットというのは、映画や番組に関わった人たちにとって非常に重要な数分間の映像です。黒塗りのスクリーンにエンディングBGMとともにたくさんの人たちの名前が記されて、それが高速度で画面の上に上がっていく。視聴者の中には見ない人も多い画面でありながら、それがあることは映画関係者の長年の話し合いによって決められた、大切なルールになっています。

 ところが冷静に考えてみればそれがあることはルールなのですが、見るかどうかは視聴者が決めればいい。だからネットフリックスではクレジットを積極的にスキップします。

 この方式、アニメを連続して見る時にものすごく威力を発揮します。アニメの1シーズン13本を一気見しようとしたら結構な回数、オープニング主題歌とエンディング曲を繰り返し繰り返し13回聴く必要があります。しかしネットフリックスなら、そこをすべて飛ばして視聴することができます。アニメ作品によっては「前回のあらすじをスキップする」ということまでできるので、さらに一気見のタイパは上がります。

 この話をまとめてみましょう。やはりネットフリックスのオリジナル作品は面白いのです。

 その背景には「最高の人材に最高の報酬を払う」という会社としてのルールがあることが一つ。そしてそれ以外の部分については、業界のタブーを気にせずに消費者が見たい作品を見たい形で届けるという信念があるのです。

 なぜ、それができるのか?

 ネットフリックスのやり方に反対するはずの業界の人が、すでに最高の報酬をもらっているから反対しないのです。つまりネットフリックスの番組イノベーションは一周回ってすべてつながっているのでした。