近年よく耳にする「FIRE」という言葉。これは、「Financial Independence, Retire Early」の略称であり、「経済的自立」と「早期リタイア」を意味している。働かなくてもいいだけのお金を手に入れて、定年など待たずにリタイアして自由に暮らす生き方のことだ。多くの人はこの言葉を聞いても、「どうせ、一部の投資家か起業家にしか実現できないことだ」と考えるのではないだろうか。しかし、『FIRE 最強の早期リタイア術』の著者であるクリスティー・シェンは、家族の生活費が1日44セントという超貧乏暮らしからスタートし、100万ドルを貯めて30代でFIREを成し遂げるに至った。本記事では、本書の内容をもとに「幸せな生活をしつつ、貯蓄をする方法」をご紹介する。(構成:神代裕子)

FIRE 最強の早期リタイア術Photo: Adobe Stock

普通のサラリーマンでもFIREはできる

 本書『最強の早期リタイア術』は、端的に言えば「100万ドル(約1億円)貯めて、それを投資していけば、その利益で一生働かなくても生きていけますよ」ということと、そのための具体的な方法が書かれた本だ。

 たいていの人は、そんなことを言われると「その100万ドルをどうやって貯めるんだよ!」と憤慨したり、「どうせ、元々高給取りのエリートか、金持ちが言っていることなんだろう」と、自分には関係ないことだと考えたりするのではないだろうか。

 しかし、驚くべきことに、著者のクリスティー・シェンと夫のブライス・リャンの2人は、FIREする前はごくごく普通のコンビュータ・エンジニアだったのだ。

 当時、2人の年収は合わせて約12万5000ドル。単純計算で、一人当たりの年収は6万2500ドルだ。

 一人ひとりは、決して桁外れの高給取りというわけではない(なお、「700万円近くも稼げていないよ!」とガッカリする方もいるかもしれないが、著者は「年収は気にしなくていい。大事なのは貯蓄率だけ」と語っているので安心してほしい)。

 そんな普通のビジネスパーソンが、二人がかりとは言え100万ドルを貯め、30代でFIREしたというのだから何とも夢のある話ではないか。

 とはいえ、30代で100万ドルの貯金を実現できるかと考えると、なかなか難しいようにも思う。

貧困を乗り越えてコンピュータ・エンジニアに

 しかも、クリスティーの幼少期は、私たちの想像を絶する貧しさだ。

 中国の農村部出身の彼女は、家族3人が1日わずか44セントで暮らしていた。

 当然、おもちゃなんて買ってもらったことのない彼女は、医療廃棄物を漁って集めたパーツで人形を作って遊んでいたのだという。

 だから、決して実家が裕福だったから100万ドルという貯金を実現できたわけではないのだ。

 むしろ、多大な努力をして大学に進学し、コンピュータ・エンジニアになっている苦労人だ。

 彼らは、働き始めた頃から無駄な出費を徹底的に抑え、着実に貯金をしていた。

 そして、綿密に計画を立てた投資でコツコツとその貯金を増やしていったのだ。

幸福感を下げない節約方法とは

 では、どのような方法で貯金をしたのか。クリスティーは、本書で次のように語っている。

支出を切り詰めるのは、ダイエットのようなものだと誰もが考えがちです。支出を減らせば、これまでより幸福ではなくなると思われています。ところが実際は、ある種の節約はあなたの幸福感を低下させません。つまり、すべての節約に痛みが伴うわけではないのです。(P.89)

 お金を貯めることだけを優先して、大好きな食べ物や人生を豊かにする趣味を我慢しなければならないのであれば、それは確かにつらい節約になる。

 しかし、特に削ってもさほどつらくないものを削ればきちんと節約ができる、と言っているのだ。

 幸福感を保ちつつ、お金を貯める。そのための方法として、クリスティー・シェンは次の4つのステップを推奨している。

「あなたを幸せにしない基礎的な支出」を削る

 第1ステップは、「削っても生活の質に大きな影響を与えない支出を探して削る方法」だ。

 例えば、銀行の手数料や利用していないサブスクリプションの利用料、固定電話の利用料などがそれに当たる。

 確かに、多くの利用料はクレジットカード払いや銀行引き落としにしているため、特に今は使っていないのに惰性で支払っているものがある人も少なくないだろう。

「痛みを伴うがいずれ慣れる支出」も削減を

 第2ステップとして、著者は「削ると最初のうちは多少不便だったり不快だったりするかもしれないけれど、いずれ慣れる支出を削ること」をおすすめしている。

 例えば、通勤を自転車に切り替えたり、仕事中のランチを購入することをやめてお弁当にしたりするようなことだ。

 ただし、周囲から「無駄だ」と言われても、削ってしまうとあなたにとって幸福レベルが下がるものはそのままで良い、と著者は主張する。

 彼女にとっては、それは「スパイシーな四川料理を食べること」らしい。

所有している高額なものを減らす

 第3ステップでは、「所有している高額のものを減らそう」と著者は呼び掛ける。

 例えば、自動車だ。車は、その本体が高いのもさることながら、ガソリン代、保険の費用、駐車場代など維持費がかなりかかる。

 ただし、彼女は「車を手放そう」と言っているわけではない。「走る距離を減らすだけでもいい」と語る。

自動車の想定外の費用の大半は、所有自体ではなく走った距離に左右されます。運転する距離を減らすと、ガソリン代や維持費が下がります。毎日運転しなければ、自動車保険の保険料も下がります。例えば、オフィスまで自転車で行く、公共交通機関を利用するなど、車を利用する頻度を減らせば、想定外の費用を減らしながら車を少輔し続けることができます。(P.93-94)

節約したら、ご褒美も忘れずに

 第4ステップとしては、「少し楽しんでいい」と言う。

これまで削ってきた支出の金額を足し合わせた上で、その一部を自分へのご褒美にまわすのです。何に使うかをあらかじめ決める必要はありません。なんでもやりたいことをするための「楽しむお金」です。(中略)節約した金額を下まわる支出で済めば、あなたはより幸福な生活をしつつ、見事に貯金残高を増やすことになるのです!(P.94-95)

 我慢ばかりでは続かない、ということなのだろう。

FIREの第一歩は堅実な貯金

 もちろん、著者の二人が100万ドルという大金を貯めることができたのは、節約だけがすべてではない。

 節約して貯めたお金を、できるだけ安全な投資にまわし、増やす努力をしてきたからだ(その具体的な方法は、本書に掲載されている)。

 ただ、そこに至るまでの基礎となる貯金は、このような地道なステップによって蓄えられているのだ。

 これらは決して再現性のない特別なことではない。私たちにだって、明日からでもできることばかりだ。

 もしあなたが、「早期リタイアなんて夢のまた夢」と思って諦めていたのであれば、ぜひ思い直していただきたい。

 サラリーマンだって、実家が裕福でなくたって、FIREは実現できる。

 本書には、そのためのヒントが詰まっているのだから。