「見失いかけていた仕事の面白さを取り戻し、自分らしく働くことができるようになったおかげで、夫婦の関係も良くなりました。なぜこれまで自分がかたくなに東京にこだわっていたのか、今では不思議で仕方ない」
しかしその一方で、前職の同僚には「都落ち」とささやかれているとのうわさも耳に入った。ただ東京が肌に合わないというだけで、逃げのように捉えられてしまう。「低コスト」という面ばかりが先行していることで、お金の問題で地方移住を選択したと思われてしまうことが歯がゆいとヒロキさんは語る。
「多くの人にとって地方より中央が優れているという前提は、無意識的に存在します。ゆえに現役世代で地方移住を決めた人をネガティブに捉える人もいる。しかし中央には競争力のある表現者が多いから魅力が広まりやすいだけのことで、地方にはまだまだ、未開拓の魅力が残されています。地方移住によってその魅力を掘り起こす役目を担うこともできるし、地方で蓄えた知見を持ってまた中央で活躍するという選択肢もある。地方移住は妥協ではなく、自分らしさを求めた結果だという考え方がもっと広がってほしい」(前述・鷲見さん)
ふるさと納税によって地方には豊富な特産品や名物があるんだと周知されたように、地方の魅力はまだまだ伝わりきっていない部分も多い。
「東京圏の情報は多くの人がすぐに手に入れられるが、地方の魅力や情報にはいまだ希少性が備わっているという点で、ビジネス価値を秘めています。私は仕事柄、地方自治体さんと多くやりとりをさせてもらっていますが、地域によっては広報やPR、マーケティングという仕事自体が存在しない地域もある。そして多くの場合、若い人手が不足しています。だからこそ自分にしかできない仕事も眠っているし、新規開拓の余地もあるのではないでしょうか」