日本銀行に「大胆な金融緩和」を求める安倍政権の発足に伴い、日銀の独立性への関心が高まっている。日本銀行が2%のインフレ目標を導入したことを受けて、週刊ダイヤモンドでは2月2日号で「日銀陥落~安倍政権の危険なギャンブル 要求丸呑みの舞台裏」(第二特集)を掲載。本特集が電子書籍としてKindle版kobo版で発売されたのに併せ、日銀の理論的支柱でもあった京都大学公共政策大学院の翁邦雄氏へのインタビューを完全ノーカット版でお送りする。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)

繰り返される政府vs日銀の“勝ち敗け”報道<br />必要なのは「協調のあり方」の議論だ<br />――京都大学公共政策大学院・翁 邦雄教授インタビューおきな・くにお
1974年東京大学経済学部卒業、日本銀行入行、80年シカゴ大学留学、83年同大学でPh.D取得・日本銀行復帰(金融研究所)、92年調査統計局企画調査課長、94年金融研究所研究第一課長、97年企画局参事、98年金融研究所長、06年日本銀行退職、中央大学教授、09年京都大学・公共政策大学院・教授、現在に至る。『ポスト・バブルの金融政策』(共著、ダイヤモンド社)『バブルと金融政策』(共著、日本経済新聞社)『ポスト・マネタリズムの金融政策』(日本経済新聞出版社)、『金融政策のフロンティア』(日本評論社)など著書多数。

――日銀法改正という刃を振りかざし、国債購入を日銀に迫る政治の動きが再燃しています。過去にもこうした政治の言動は何度も見られました。政治とのあるべき関係と、実際とのズレが、中央銀行に与えるダメージについて、どのようにお考えでしょうか。

 日本経済はデフレ脱却の方向に向かいつつあるようにみえます。しかし、ゼロ金利制約の下での非伝統的金融政策は力不足です。デフレ脱却の足取りは重く、日銀に対する政財界からの批判はきわめて根強いままです。

 しかし、こうした事態の推移は決して予想外のことではありません。

 2011年6月に上梓した『ポスト・マネタリズムの金融政策』の終章で、「デフレ脱却の処方箋について、中央銀行は物価安定を使命として与えられているのだから、デフレ的な環境のもとではデフレ脱却に邁進すべきだ」と述べました。しかし、中央銀行が単独でデフレ脱却を完遂するのはむずかしいので、その状態のなかで社会が選択できるオプションは3つある、とも述べました。

 オプション①は、「引き続き、中央銀行に対し単独でデフレ脱却へ立ち向かうことを求める」というもの。オプション②は、「中央銀行のデフレ脱却を政府が支援する」。オプション③は、「政府が前面に出てデフレ脱却を目指し、中央銀行の協力を要請する」というものです。

 中央銀行が単独でデフレ脱却に立ち向かう場合(オプション①)、デフレからはなかなか脱却できませんが、それで社会が壊れることはありません。中央銀行はスケープゴートにはなりますが、そのことによって社会は守れるメリットがあります。