1ドル=93円――。2010年5月以来、実に2年9ヵ月ぶりの円安水準である。大胆な金融緩和と2%のインフレ目標により、円高・デフレからの脱却を目指す金融政策は、安倍首相が政治生命を賭ける「アベノミクス」の目玉政策だ。これを受け、一時70円台まで達したかつての円高が嘘のように、足もとでは円安の流れが止まらない。いくら日本が輸出立国とは言え、この円安を本当に喜んでばかりいてよいのだろうか。巷では「未曾有の円安不況がやって来るのではないか」と危惧する声もある。足もとにおける円安のメリットとデメリットは何なのか。未知の円安不況は本当にやって来るのか。専門家の意見を聞きながらリサーチしよう。(取材・文/プレスラボ・宮崎智之)

白川総裁の辞任発言で一段安に
この円安はいつまで続くのか?

 1ドル=93円台――。2010年5月以来、実に2年9ヵ月ぶりの円安水準である。2月6日、日本銀行の白川方明総裁が任期満了前に辞任表明したことを受け、円はドルに対して一段安となった。

 背景には、安倍首相が唱える金融政策を忠実に行なう新総裁が誕生し、大胆な金融緩和が前倒しで実施されるという見通しが、金融市場の関係者の間に広まっていることがある。

 大胆な金融緩和と2%のインフレターゲットにより、円高・デフレからの脱却を目指す金融政策は、安倍首相が政治生命を賭ける「アベノミクス」の目玉政策だ。その期待から、一時70円台まで達したかつての円高が嘘のように、足もとでは円安の流れが止まらない。この円安に反応し、日経平均株価も1万1000円台を回復した。

 言うまでもなく、円安・株高は日本経済にとって追い風だ。その効果は、大企業の間で早くも表れ始めている。たとえば、円安によって輸出改善を見込む自動車メーカーでは、トヨタ自動車が3月期の営業利益予想を1000億円、マツダが200億円上方修正すると発表した。

 期待は、中小企業や個人事業主にも広がっている。内閣府が1月に発表した『景気ウォッチャー調査』では、家計、企業動向、雇用関連とも現状を「やや良くなっている」と回答した者が増えている。