対象者の車が幹線道路から外れて、だんだんと交通量も減ってきました。幾度か曲がったのちラブホテルや風俗店が立ち並ぶエリアに入り、対象者の車と私のバイクだけが細い道路をゆっくりと走行している状況になりました。さすがに焦りました。
風俗店の呼び込みの男性や、道路脇にパイプ椅子を出して座っている老女などにジロジロ見られる中、大きな声も出しづらくギリギリの小声でパートナーを誘導し続けましたが、一向に距離は縮まりません。ついに対象者の車は、駐車場に停車しました。私はいったん通り過ぎてバイクを停車させ、様子をうかがいに行きました。
駐車場は、平面の車が向かい合う形で10台ずつくらい停車できそうな広さでした。対象者の車は入り口からすぐ右手側に停車しており、薄暗い中、目を凝らすと運転席と助手席に男性が乗っているようでした。小声で呼びかけると車班は「あと5分で行きます!」とのことで、私が行方を追うしかなく、対象者の車が移動する可能性にも備えなければいけません。
応援の車が到着せず
駐車場で大ピンチ
駐車場の別の入り口の確認も含め、バイクに乗り駐車場の最も奥に向かうことにしました。エンジンをかけ駐車場に入り、右手に見える対象者の車内にはまだ人影があることを確認し、奥に向かうと行き止まりでした。これは誤算でした。入り口が1つであることは確認できてよかったのですが、車用の駐車場にバイクが入ってきたことには違和感があるはずなので、まずは身を隠さないといけません。
駐車場はほぼ埋まっており、幸いにも対象者の車とは斜め向かいに位置する最も奥の駐車場は空いており、すぐさまそのスペースに停車しエンジンを切りました。さらに幸いだったのは、隣の車が大きなワゴン車で完全に隠れることができたことです。私はバイクから降りてワゴン車の下から対象者の車の様子を探ろうと、地面にはいつくばっていたところ、対象者の車方向からドアが空いてこちらに向かって歩いてくる靴音が聞こえました。
私は身を隠すため隣のワゴン車の下に入ろうとしましたが、慌てていたためフルフェイスのヘルメットを脱ぐのを忘れていて、頭がワゴン車と地面に挟まって抜けなくなってしまったのです。足音は近づいてきます。少しでも身を隠すべく、体だけでもワゴン車の下に入れようと静かに体を滑り込ませながら、かすかな声で呼びかけると車班は「あと5分で行きます!」と答えてきました。「ずっと5分だな!どうなってんだ!」と怒鳴りたい衝動をなんとか抑えた時、足音が止まりました。
私はその方向が見えない状況で挟まってしまっていたため、足音の主を確認することはできませんでした。たったの数秒がとても長く感じました。足音の主は私の姿を見ていたかどうかは分かりませんが、数秒ののち私が挟まっていたワゴン車の向かい側に止めてあった車に乗り込み、発車したようでした。