そうした丸腰の安全・安心体制ですから、いったん危機が起こった時、なすすべがなかったわけです。事故後、原子力安全・保安院の保安検査官たちは、福島第1のオンサイトからあたふたと逃げ出します。あのシーンにガラスの城の崩壊が映し出されています。この本の最初(第一章)にあの話を持ってきたのは、原発のメルトダウンとともに、そうした「国の形」のメルトダウンも、同時に始まったことを伝えたいと思ったからです。

敵は軍隊ではなく放射能
米軍横須賀基地も大騒ぎになった

 もう一つ、この本を何としでも書きたいと思うようになったきっかけは、知り合いの米海軍将校と食事をしたときの会話です。

 彼は、トモダチ作戦遂行のため三陸沖にやってきた米空母、ロナルド・レーガンで勤務についていましたが、「あのときは、ヨコスカ・ショックで大変だったんだ」と一言、漏らしたのです。

 ヨコスカ・ショック?

 何のことかわかりませんでした。危機のさなか、米海軍横須賀基地が放射能汚染の恐怖で大騒ぎになったことをその時初めて知りました。

 日本には米国という同盟国があります。

 地震・津波のあと、米国はいち早く日本支援に駆けつけた。しかし、福島第1原発事故の対応支援の場合、敵は放射能です。米軍もまったく勝手が違ったんですね。2012年6月末、ワシントンに行き、米政府高官にインタビューして、米政府部内でも海軍と国務省との間で、実は大変なバトルが繰り広げられていたことを知ったのです。

「トモダチ作戦」、「海軍vs国務省」、「ヨコスカ・ショック」、「ホソノ・プロセス」と『カウントダウン・メルトダウン』全21章のうち4章分を日米同盟関連に当てたのは、あの危機の実相を米国と日米同盟のレンズからえぐり出したいと思ったからです。