カンボジア 2013年3月27日

「カンボジア産」のプライドを取り戻す
内戦で途絶えた国産生糸、復活への道筋

先進国での安定した暮らしを捨て、祖国の現実と向き合う

 日本で神戸大学に留学したカリヤンさんは帰る場所を失い、日本の商社に就職。それでも「いつか祖国の役に立つかもしれない仕事に就こう」と、国連食糧農業機関(FAO)に応募。1987年、34歳で帰化難民としては初めて、FAO職員に採用された。

 カリヤンさんが祖国の土を踏んだのは1993年、内戦終結後初めての総選挙が実施された年だった。留学生として国を離れてから19年。かつて「東洋のパリ」と呼ばれるほど繁栄を誇ったプノンペンの町は、すべてを失っていた。

 19年もの間、家族の行方も知れず、祖国に戻ることもできない人生というのは、私には想像ができない。カリヤンさんは2008年、FAOを退職し、カンボジアに永住して祖国に尽くそうと決めた。国連職員として引き続き先進国で安定した暮らしを送る道もあった。だがそれを選ばなかったのは、彼自身の中にある長く、苦しい空白の時を埋めたいと思ったのではないか。そのために、祖国の現実と向き合おう、と決意したからなのではないか。

 カリヤンさんが手がけた経済政策は、養蚕復興だけではない。カンボジアの主要産品であるコメについて、生産から精米、流通、輸出まで包括的に整備する「コメ輸出新政策(ライスポリシー)」の骨格をつくった。コメを「白い金」と呼び、輸出品の中心に据えようとするフン・セン首相肝いりの政策だ。

 カンボジアのコメはこれまで、タイやベトナムへ密輸されることが多かった。国内に大規模な精米所や、輸出を担う流通販売システムが整備されていなかったからだ。これを改善し、カンボジアの農家が作ったコメを「カンボジア産」として国際市場に輸出しよう、というのがライスポリシーの目的だ。

 このライスポリシーの根底にも、養蚕復興と同様に「カンボジア産」のプライドを取り戻したい、というカリヤンさんの強い思いがにじむ。

 とはいえ、生糸産業が商業ベースに乗るまでには、まだ長い道のりが待っている。国立養蚕研究所での2年以上の取り組みで、健康なカイコを育てまゆを生産する仕組みは整いつつある。

 次の課題は、まゆから生糸を生産する技術の定着と、カンボジア産生糸の市場の開拓だ。巨額の投資を必要とする生糸工場の建設は現実的に難しいことから、カリヤンさんは、大量生産ではなく「手紡ぎ」の高級生糸の市場開拓を狙いたいという。しかし、資金不足は深刻な問題だ。カリヤンさんは、伝統産業であると同時に、貧困削減にも効果を発揮する養蚕業の復活に力を貸してほしい、と呼びかけている。

エサを元気に食べる国立養蚕研究所のカイコ=カンダール州で【撮影/木村文】
美しいカンボジアの絹織物=プノンペン市内で【撮影/木村文】

(文・撮影/木村文)

筆者紹介:木村文(きむら・あや)
1966年生まれ。国際基督教大学卒業、米インディアナ大学大学院ジャーナリズム科修了後、朝日新聞入社。山口支局、アジア総局員、マニラ支局長などを経て2009年に単身カンボジアに移住、現地発行のフリーペーパー「ニョニュム」編集長に(2012年4月に交代)。現在はフリー。

 


幸福の「資本」論|橘玲著 幸福の「資本」論 重版出来!
橘玲著

あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」。あなたが目指すべき人生は?
定価:1,650円(税込) 発行:ダイヤモンド社
購入はコチラ!
世の中の仕組みと人生のデザイン|橘玲のメルマガ配信中! 20日間無料 ザイでしか読めない!橘玲のメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」も好評配信中!
月額880円(税込)
いますぐ試す(20日間無料)
 

 

バックナンバー

»関連記事一覧を見る

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲のディープなメルマガ
発売即重版決定! 橘玲の最新刊【幸福の「資本」論】発売!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
橘玲×ZAiONLINE海外投資の歩き方
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。