ヘンリー・ミンツバーグ 偶像破壊主義者や反逆者と見なされることの多いヘンリー・ミンツバーグは、確かに多くの伝統的な考え方に異を唱えてきた。

 しかし、彼は自分が同意できない人物を攻撃するのではなく、痛烈な明快さでその人たちの誤りを証明しようとしているだけだ。

 ミンツバーグの著作は、マネジメントの現実を理解するために捧げられたキャリアの産物だが、誘惑に打ち勝って、すべからくマネジメントはかくあるべきであると断言することは避けている。

人生と業績

 ヘンリー・ミンツバーグはカナダに生まれ、実質的な仕事もカナダが拠点となっている。彼はマギル大学で学び、その後マサチューセッツ工科大学(MIT)に進んだ後、カナダに戻り、1961年にカナダ国有鉄道に就職した。1963年には学究生活に入り、1968年にはマギル大学に教授として戻った。この職には現在までずっとついている。彼はマギル大学の組織戦略研究センターのセンター長でもあり、これまでに他の経営教育機関でも重要な地位を歴任した。フランスのフォンテンブローにある国際経営ビジネススクールであるINSEADの客員教授も務めた。彼は世界中の多数の企業のコンサルタントを務めており、1988年から91年にかけては戦略マネジメント学会の会長であった。

 1973年に発表された著書『マネジャーの仕事』(The Nature of Managerial Work)と2年後に書かれた「ハーバードビジネスレビュー」の画期的な論文「管理者の仕事・その伝説と実際の隔たり」(The manager's job: folklore and fact)によって、マネジメントの世界で影響力を拡大するきっかけをつかんだ。緻密な調査と思慮に富む観察に基づいたこの2作品は、自分の責務をうまく遂行しているマネジャーがやっていることは多くのビジネス理論とはかなり違うことを示し、ミンツバーグの名声を確立した。

思想のポイント

 経営思想へのミンツバーグの貢献は、多くのマネジメント思想の権威とは異なり、限られた専門分野での1つか2つの気の利いた理論を基盤とするものではない。彼のアプローチの範囲は広く、マネジャーの行動の内容や実行の仕方すべてが研究対象となっている。マネジメントとは人間の能力をシステムに適用することで、システムを人に適用することではないという基本的な信念は彼の魅力をいっそう大きくしており、この信念は彼の著作全体を通じて展開されている。

●マネジャーの働き方
 「管理者の仕事・その伝説と実際の隔たり」の中で、ミンツバーグはマネジャーの仕事実態を赤裸々に暴露している。「本論文に全編を貫く単純明快なテーマがあるとしたら、それは仕事のプレッシャーがマネジャーの行動を皮相的なものにしているということだ。マネジャーは過剰な仕事を抱え、中断を拒まず、あらゆる刺激にすばやく反応し、目に見える成果を求め抽象的なことは避け、こまぎれに意思決定を行ない、すべてを唐突に行なっている」と彼は書いている。